解像度1μmで回路を印刷、移動度も実用レベル:フレキシブル基板上に、常温で有機TFT形成
物質・材料研究機構(NIMS)の三成剛生氏らによる研究チームは、線幅/線間1μmの解像度で金属配線および薄膜トランジスター(TFT)を形成する印刷技術を開発した。フレキシブル基板上に素子を形成し、移動度が実用レベルであることも確認した。
物質・材料研究機構(NIMS)国際ナノアーキテクトニクス研究拠点のMANA独立研究者である三成剛生氏のグループとコロイダル・インクからなる研究チームは2016年5月、線幅/線間1μmの解像度で金属配線および薄膜トランジスター(TFT)を形成する印刷技術を開発したことを発表した。この手法を用いて、チャネル長が1μmの有機TFTをフレキシブル基板上に形成し、実用レベルの動作性能であることを確認した。
三成氏らの研究チームは、2014年に室温印刷で有機TFTの作製に成功していた。当時の配線/素子の線幅は10〜100μmであり、実用化に向けて解像度のさらなる向上と、再現性の高い印刷技術の開発に取り組んできた。
これらの成果として今回、フレキシブル基板上に1μmの金属配線を形成できる印刷技術を開発し、微細な有機TFTを形成することに成功した。印刷の原理は、波長200nm以下の真空紫外平行光(PVUV)を照射。これによって表面に微細な親水/疎水性パターンを形成し、金属ナノインクを親水性パターン上へ選択的に塗布するというものである。
具体的には、PVUV光源としてウシオ電機製の真空紫外平行光照射ユニットを用いた。従来の光源を用いた場合に比べて、極めて微細な印刷が可能になったという。金属ナノインクはコロイダル・インク製の常温導電性インク「DryCure-Au」を用いた。これにより、素子/配線の形成をすべて常温で行うことができる。常温で処理するため熱ストレスによるフレキシブル基板の歪みがなく、ミクロン単位で配線や素子を形成することを可能とした。
今回開発した印刷技術を用い、チャネル長1μmの有機TFTを形成した。ゲートオーバーラップ長も完全に制御できたことから、移動度は0.3cm2/V・秒を達成、実用レベルの数値となった。同様にチャネル長3μmの素子では0.9cm2/V・秒、チャネル長5μmの素子では1.5cm2/V・秒の移動度になることを確認した。
選択的塗布によって形成したチャネル長1μmの有機TFT。上部左が1μmのギャップを持つ印刷電極。上部右は1μmギャップの走査電子顕微鏡像。下はプラスチックフィルム上に形成した有機TFT (クリックで拡大) 出典:NIMS
研究チームは、今回開発した成果をベースに、実用化に向けた応用研究に引き続き取り組む。また、開発した印刷技術は、生体に近い材料への適用も可能である。このため、医療やバイオエレクトロニクスなどへの応用研究にも期待している。
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