自前主義で“モノづくりの自由度”を失った日本:イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜(3)(2/2 ページ)
クローズド・イノベーションで辛酸をなめた米国のあるメーカーは、オープン・イノベーションへと考え方を変えていった。一方で日本の半導体業界は、「オープン・イノベーション」をうたいながらも、実際は“自前主義”、過度なクローズド・イノベーションを貫いてきた。
自前主義でやってきた日本
ではひるがえって、日本はどうだろうか。
日本では、「オープン・イノベーション」といいながらも、それは“掛け声”だけで、実質的には自前主義を貫いてきた。
1980年代。日本の半導体業界は、それはそれは強かった。ランキングを見ても分かるだろう。
これが、2015年の売上高ランキングになると、上位10社中、日本企業は東芝の1社しか入っていない。25社まで範囲を広げても4社である(関連記事:2015年半導体メーカー売上高ランキング)。これに比べて、米国は25社のうち14社もランクインしている。
15年 順位 |
14年 順位 |
社名 | 15年売上高 [億米ドル] |
前年比 | シェア | |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | Intel | 米国 | 514.2 | 2.9% | 14.8% |
2 | 2 | Samsung Electronics | 韓国 | 401.6 | 8.3% | 11.6% |
3 | 4 | SK Hynix | 韓国 | 165 | 2.4% | 4.8% |
4 | 3 | Qualcomm | 米国 | 165 | ▼14.5% | 4.8% |
5 | 5 | Micron Technology | 米国 | 140.8 | ▼12.6% | 4.1% |
6 | 6 | Texas Instruments | 米国 | 122.6 | 0.1% | 3.5% |
7 | 15 | NXP Semiconductors | オランダ | 97.2 | 77.3% | 2.8% |
8 | 7 | 東芝 | 日本 | 88.3 | ▼13.7% | 2.5% |
9 | 8 | Broadcom | 米国 | 84.1 | 0.2% | 2.4% |
10 | 9 | STMicroelectronics | スイス | 69 | ▼6.8% | 2.0% |
出典:IHS |
なぜ、ここまで衰退してしまったのか。
これは、過度な垂直統合、自前主義が災いしたと筆者は考えている。そこには、「オープン・イノベーション」の考え方はどこにもみられない。研究開発から製造まで全て自社で抱え込んでしまうという、絵に描いたようなクローズド・イノベーションのビジネスモデルをとってきたのだ。エコシステムレベルでのビジネスモデルがすっぽりと抜け落ち、技術が広がっていくことがなかった。例えば「Linux」や「iOS」など、オープンソースにしてエコシステムを構築し、それを広げていくという考え方が欠如していたのである。
注目したいのは、設計と製造を切り離さずに統廃合をしてきたことだ。だが、設計と製造ではビジネスモデルがだいぶ異なる。一方で世界の半導体業界では、ファウンドリーが生まれ、半導体メーカーのファブレス化が進んでいった。米国では、日本が強さを誇っていた1980年代から既にファブレス化に向けた顕著な動きがあった。
日本は、「モノづくり」にこだわり過ぎて、設計と製造を切り離したビジネスモデルの発想がなかった。ファウンドリーが登場し、ファブレス半導体メーカーが増える中、日本の半導体メーカーは、逆に“モノづくりの自由度”を失っていったのである。
(次回につづく)
⇒「イノベーションは日本を救えるか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
ハイテク分野での新規事業育成を目標とした、コンサルティング会社AZCA, Inc.(米国カリフォルニア州メンローパーク)社長。
米国ベンチャー企業の日本市場参入、日本企業の米国市場参入および米国ハイテクベンチャーとの戦略的提携による新規事業開拓など、東西両国の事業展開の掛け橋として活躍。
AZCA, Inc.を主宰する一方、ベンチャーキャピタリストとしても活動。現在はAZCA Venture PartnersのManaging Directorとして医療機器・ヘルスケア分野に特化したベンチャー投資を行っている。2005年より静岡大学大学院客員教授、2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年よりXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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