ソフトバンク史上最大の賭けに出た孫氏の思惑:ARM買収は“必然”だった?(4/4 ページ)
なぜ、ソフトバンクはARMを買収したのか? 狙いはどこにあるのか? いろいろな見方が広がっている中で、いま一度、ソフトバンクが行ってきた大きな投資を振り返りながら、ARM買収の意味を考えた。
IoTの共通基盤への影響力が増大
こうした背景から、市場規模は小さいながら、絶対的な地位でIoT世界でも君臨できる切符を手にしているARMに、孫氏は目を付け、自らの傘下に入れようとしている。それは、よりピラミッドの上のレイヤーにアプローチし、プラットフォームに影響力を持とうとしてきたこれまでの孫氏の賭け方と矛盾しない。すぐ頭上に位置する巨大なGoogle(しかもIoTで勝つ確約もない)を飛び越し、最上流のARMを買収することで、これから出現するであろう“IoTのプラットフォーム”に影響力を持とうとしたと思えてならない。
ARMがどこまで、IoTのプラットフォームに影響力を持てるかは分からないが、少なくともプラットフォームの一角(少なくともCPUコアIP領域)を占めることは間違いない。そしてソフトバンクとしてのIoTプラットフォームへの影響力はこれまでの「キャリア分+コンテンツホルダー分」に「ARM分」が加わる。
恐らく孫氏の頭の中には、手にした影響力を使って、構築するIoTプラットフォーム像が仕上がっていると思うが、もしかすると、まだ仕上がっていないかもしれないとも感じる。仮に仕上がってなくても、将来IoTプラットフォームを構築するプレーヤーは、ARMが接点を持つプレーヤーの中に極めて高い確率で存在する。ARMが接点を持つプレーヤーたちを監視し、IoTプラットフォームサプライヤーとして頭角を出し始めたプレーヤーと誰より早く手を組んで、IoTプラットフォームをともに構築すればよいだけの話になる。そうしたARMのポジションに価値を見いだし、3.3兆円を支払い手に入れようと決めたのだと思う。
しょせんは賭けにすぎないが……
ただ、ソフトバンクが必ず、成功するどうかは分からない。しょせんは賭けにすぎない。もしかするとARMと関係のないIntelがIoTプラットフォームを構築する可能性もあるだろう。また、CPUコアIPが、インターネット世界の生態系の外に押し出される可能性があるだろう。というのも現状、機器の頭脳はCPUだが、今後、人工知能、すなわちディープラーニングなどの処理を行う機能やIP(GPUコアIPなど?)がIoTのプラットフォームに大きな価値をもたらすならば、CPUの影響力は相対的に低下していくことになるからだ。
こうした懸念があるからこそ、孫氏はARMを株式非公開企業にしたと思う。すなわちARMの収益性を度外視して、CPUコアIPにとって代わる可能性のあるIPやさらにCPUを強くする開発に全力を注ごうとしているのだろう。市場規模がさほど大きくないIP領域で、採算度外視の潤沢な開発投資ができるとなると、ARMが技術的に優位な地位を築ける可能性はより高くなる。
もし孫氏が、今後、IoTプラットフォームで必要になるIP、そしてそのIPで共にプラットフォームを作るパートナーを見抜いているならば、モバイルインターネットよりも大きな市場規模があるとされるIoT時代は思ったより早く到来する。そうなれば、ソフトバンクは、ARMへの投資(買収費用3.3兆円+今後の開発費)を、キャリアやネットワークサービスといったレイヤーで回収できる。たとえ、将来を見抜いていなくても、その予兆は、インターネット生態系の頂点で、誰より早く将来をキャッチできる可能性が高い。
だからこそ、ソフトバンク、孫氏はARMを買収したのだと思っている。
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