酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明:不揮発メモリの高容量化などが実現可能に
東京工業大学の清水荘雄特任助教らによる研究グループは、酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明した。薄膜でも特性が劣化しない強誘電体の開発により、高速動作する不揮発メモリの高容量化や、強誘電体抵抗変化メモリの実用化が可能になるとみられている。
チタン酸ジルコン酸鉛などと比較して遜色なし
東京工業大学元素戦略研究センターの清水荘雄特任助教らによる研究グループは2016年9月、酸化ハフニウム基強誘電体の基礎特性を解明したと発表した。膜厚を15nmまで薄くしても特性が劣化しない強誘電体単結晶膜の開発に成功した。これにより、高速動作する不揮発メモリの高容量化を可能とする。
今回の研究成果は清水氏の他、東京工業大学物質理工学院兼同センターの舟窪浩教授、東北大学金属材料研究所の今野豊彦教授と木口賢紀准教授、物質・材料研究機構技術開発・共用部門の坂田修身ステーション長らの研究グループによるものである。
強誘電体を用いたメモリは、電源を切ってもデータを保存することができる。このため、交通機関などで利用している非接触式ICカード(電子マネー)などに応用されている。ところが、強誘電体を薄膜にしていくと特性が低下するため、これまではその用途が限定されていたという。
研究グループは、5年前に報告があった「薄膜でも強誘電性が発現する」という酸化ハフニウム基強誘電体に注目した。これまで報告された薄膜は、さまざまな方位を向いた粒の集合体(多結晶)で、不純物相も存在していたため、基本的な性質は明らかにされておらず、実用化に向けては課題もあった。
強誘電体膜の組成を状態図から見直し
今回は、強誘電体膜の組成を状態図から見直し、最適化した酸化イットリウム(Y2O3)を置換した酸化ハフニウム(HfO2)を選択。同時に、薄膜を成長させる基材の結晶構造およびその格子の長さなどを工夫した。これによって、15nmという極めて薄い膜でも、特性が劣化しない強誘電体単結晶膜を作製することに成功した。
さらに、結晶構造が類似しているインジウム・スズの酸化物(ITO)薄膜を電極として用い、酸化イットリウム結晶の方向を制御した単結晶膜を電極上に作製した。こうして作製した単結晶膜を用いて特性を測定したところ、400℃以上まで強誘電体相が安定に存在することが分かった。
研究グループは今回、薄膜の強誘電特性を取得することにも「世界で初めて成功した」と主張する。測定結果と結晶方位の関係から、電源を切った時にためられる電気の量や使用可能な温度が明らかにした。これらの研究成果から、これまで用いられてきた物質であるチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3)やタンタル酸ストロンチウムビスマス(SrBi2Ta2O9)と比べても、遜色のない特性を有することが分かった。
研究グループは、今回の研究成果が強誘電体メモリの高容量化にとどまらず、強誘電体抵抗変化メモリの実用化や、電池の使用時間を飛躍的に延ばすことができるトランジスターの作製など、新規デバイスの開発につながるとみている。
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