自己発電型高速受光素子、NICTが開発:同一素子で高周波信号と電気起電力を同時生成
情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所は、早稲田大学理工学術院の川西哲也教授および日立国際電気と共同で、効率の高い高速受光素子の開発に成功した。同一素子で100GHz高速光信号の受信と光起電力の発生を同時に行うことができる。
光−ミリ波変換モジュールのコスト低減を可能に
情報通信研究機構(NICT)ネットワークシステム研究所は2016年9月、早稲田大学理工学術院の川西哲也教授および日立国際電気と共同で、効率の高い高速受光素子の開発に成功したと発表した。同一素子で100GHz高速光信号の受信と光起電力の発生を同時に行うことができる。
ミリ波帯通信は、大容量データを高速に伝送できるが、伝搬距離が短いなど課題もあった。このため、光ファイバー通信とミリ波帯無線の特長を生かした高速通信システムの実用化などが期待されている。
NICTはこれまで、光信号をミリ波信号に変換する機能に加え、システム構成を簡素化できる受光素子の開発に取り組んできた。今回開発した高速受光素子(自己発電型高速受光素子)は、化合物半導体技術を用いるとともに、特殊なPN接合構造を採用した。これによって、「入力した光信号からミリ波帯信号と同時に、世界で初めて起電力を取り出すことに成功した」という。
これまでは、後段にある増幅器を動作させるために、外部電源を必要としていた。開発した素子は、自己発生させた起電力を用いて増幅器を動作させることができる。新開発の素子を搭載したモジュールに光ファイバーを接続すると、外部の電源がなくても、光信号から100GHz帯で出力約4mWのミリ波信号を発生させることが可能になるという。
研究チームによれば、開発した技術を用いると、受光素子への電源供給方法を大きく改善できる可能性があるという。将来は外部電源を使わず、1本の光ファイバーのみで高出力の無線信号を取り出せるよう、特性の改善に取り組む予定だ。
研究成果は、ミリ波帯レーダーを用いて滑走路上の異物を検出するシステムや、光ファイバーとミリ波帯無線を融合した高速鉄道向け通信システムなどへの応用を検討している。光/ミリ波融合技術の事業化については、日立国際電気が中心となって取り組む計画である。
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