オムロン、画像認識の“オープン化”で広がる可能性:IoTデバイスの開発秘話(3)(2/2 ページ)
オムロンは2016年8月、組み込み機器に取り付けるだけで人の状態を認識する画像センサー「HVC-P2」を発表した。HVC-P2は、独自の画像センシング技術「OKAO Vision」の10種類のアルゴリズムと、カメラモジュールを一体化した「HVC(Human Vision Components)シリーズ」の1つ。HVCシリーズに共通するのは、“オープンイノベーション”を掲げていることにある。
「最初は反対だったオープンイノベーション」
HVCシリーズは、最初からオープンイノベーションを掲げていたわけではない。きっかけは、HVC-P発表当時、ハッカソンが注目され始めていたことにある。試しに、ハッカソンで使用できるデバイスの1つとして、HVC-Pを提供したところ、開発者から「ぜひ使いたい」「面白い」という声が届いた。そこから、HVC-Pを活用したアプリがユーザー自身によって多く開発されたことで、オープンイノベーションの可能性を感じたとする。
しかし、真鍋氏をはじめ、オープンイノベーションを進めることに最初は賛成しない人もいた。“リスクの方が大きいのではないか”という懸念があったからだ。
「私も、最初は反対派だった(笑)。一般的な企業にもあるように、新しいことを始めることに抵抗感がある人は少なからずいたようだ。エピソードを話すとキリがないが、社員それぞれに思いがあり、方向性の違いからたくさんの議論もした。しかし、ライセンスビジネスは成熟期に入りつつある。次の成長を実現するには、挑戦しなければいけない。OKAO Visionで培った技術を、世界中の人に手軽に使えるような仕組みを作るには、自分たちだけでプロダクトを開発しても、そこまで広がらない。ハッカソンなどをはじめ、ユーザーとともに創るオープンイノベーションがマッチしていたのだ」(真鍋氏)
徘徊検知システムが生まれる
オープンイノベーションを進める中で、真鍋氏が「特にうれしかったこと」として、HVCシリーズを用いたシステムの商品化を行った企業が出たことを挙げた。その企業は、福岡に本社を置くY・S・Y・エンタープライズである。認知症の徘徊者早期発見補助システム「HITOMI」(ヒトミ)を開発した。HITOMIでは、対象者が外出しようとした瞬間を感知し、徘徊を検知。検知したら、スピーカーから音声で呼び止め、動画でも録画する。事前登録した家族や協力者にも、個人情報に配慮を行った上で、メールが配信される仕組みだ。これらの機能を実現するカメラの中に、HVCシリーズが内蔵されている。
ハッカソンで出会った人とのつながりから、新しいことが生まれることも多い。ハッカソンで出会った「TMCN(Tokyo MotionControl Network)」とは、HVC-C2WにおけるSDKの使い勝手の良さを改善するため、1泊2日の開発合宿を行ったという。
また、オムロンは2016年9月、Yahoo! JAPAN(ヤフー)が提供するIoTプラットフォーム「myThings Developers」とHVC-C2Wを連携したサービス開発に関する基本合意締結を発表している。この発表に関しても、「オープンイノベーションに共感してくれるヤフー社員とハッカソンで出会ったことがきっかけだった」と真鍋氏は語る。
「オープンイノベーションは、ビジネスとして立ち上がるまでに時間を要する。今は、ユーザー(オムロンは、ソリューションベンダーと呼んでいる)に使ってもらいながらフィードバックを受け、HVCシリーズを育てていく時間と思っている」(真鍋氏)
今後は、ソリューションベーダーに使ってもらいやすいように、より高性能な新製品を開発するとともに、各アプリに応じた性能改善を進めていくとした。
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