欧州車載市場に切り込むトレックスの勝算:特殊な端子加工が切り札(2/2 ページ)
ドイツ・ミュンヘンで開催されたエレクトロニクス関連の展示会「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)に出展したトレックス・セミコンダクター。同社は今後、欧州において車載市場に大きく舵を切っていく。だが車載は、“新参者”が簡単に入っていける市場ではない。トレックスの英国法人Torex Semiconductor EuropeでManaging Directorを務めるGareth Henson氏に、その勝算を聞いた。
車載市場への扉を大きく開ける秘策とは
Henson氏は、「HISAT-COTで、欧州車載市場への扉がほんの少し開いた」としながらも、「だが、車載分野での顧客にとっては、HISAT-COTのメリットはあくまでも小さい。ほんの少し開いた扉をもっと大きく開けるには、より大きいインパクトを顧客に与える必要があった」と続ける。
そして、「顧客に確実にインパクトを与える」とHenson氏が自信を見せる製品が、現在開発中の「XDL601/602シリーズ」である。これは、DC-DCコンバーターICとインダクターを1パッケージに収めたもので、AEC-Q100に準拠している。この製品で最も特徴的なのが、パッケージだ。パッケージ自体はDFNなのだが、「Wettable Flanks(ウェッタブル・フランク)」を採用しているのである。
車載用ICでは、振動による、はんだのトラブルが多いという。そのため車載分野では、PCB(プリント基板)にしっかりと、はんだ付けされているかどうか目視では確認しにくいDFNのようなリードレスパッケージの採用は進んでいない。トレックスの関西支社/関西技術センターで、第二製品グループ兼第三製品グループ グループ長/技術参事を務める廣岡憲一氏は、「リードレスパッケージだと基板にペタリと張り付いているような感じで実装されるので、画像検査などで側面から見た場合、はんだ付けされている部分が見えない」と説明する。
ウェッタブル・フランクでは、端子の部分に特殊な加工を施し、パッケージを基板に実装した時に、きちんとはんだ付けされていることを目視でも確認しやすくなっている。端子にほんの少し切り込みを入れることで、実装した際、はんだが富士山の裾野のように基板に広がるようなイメージだ。
なお、ウェッタブル・フランク*)という技術自体はトレックス独自のものではなく、Texas Instruments(TI)も、車載機器向けのパッケージとしてウェッタブル・フランクを採用したQFNパッケージを開発している。ただ、端子の加工の仕方がポイントのようで、トレックスも詳細は明かせないとした。
*)「Wettable Flanks」の日本語訳は現時点ではまだなく、「ウェッタブル・フランク」とそのまま呼ばれているそうだが、まだそこまで一般的な言葉ではないようだ。Henson氏は「自動車業界の関係者の間では知られている言葉のようだ。私も1年前まで、Wettable Flanksという言葉は知らなかった」と述べている。Henson氏によると、英語を母国語とする人間にとってWettable Flanksは「非常に奇妙な言葉」だそうだが、誰が言い出したのかは分からない。
Henson氏は、DC-DCコンバーターICとインダクターを、ウェッタブル・フランクを採用したパッケージに収めた製品は競合にはないと述べる。Torex Semiconductor Europeは、車載用半導体事業強化の一環としてトレックスが大阪に新設した関西技術センターと密に連携し、XDL601/602シリーズの開発を急ピッチで進めている。2017年4月〜5月にサンプル出荷を開始することを目指す。
Henson氏は、「XDL601/602シリーズは、トレックスにとって欧州の車載市場に向けた大きなステップとなるだろう。同製品は、顧客にとって、“トレックスを選ぶ理由”となるはずだ」と強調した。
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