新チップ「T1」でApple製品の可能性は広がる?:MacBook Proに搭載
「Touch Bar」などの新しい機能を搭載したAppleの「MacBook Pro」。MacBook Proには、新しいチップ「T1」が搭載されている。このT1の性能を生かした用途は、MacBook Pro以外にもさまざまなものが考えられそうだ。
Appleの新しいチップ「T1」
最近開催されたAppleの「MacBook Pro」のイベント後、評論家らはほぼ例外なく、同製品にタッチスクリーン機能を搭載しないというAppleの選択を批判している。Microsoft(マイクロソフト)はAppleより2日前に開催したイベントで、タッチスクリーン機能を搭載したオールインワン型デスクトップPC「Surface Studio Pro」を発表した。マスメディアは“イノベーションの王冠”をAppleからMicrosoftに素早く移してしまったようだ。
この記事では、タッチスクリーン機能の有無をめぐる論争を追求する代わりに、AsymcoがAppleの決定について筋の通った見解を発表したことを取り上げたい。
Appleはイベントでもう1つ別の製品を発表した。新しいチップ「T1」である。マスメディアはT1を見落としているようだが、同チップは今後発売されるApple製品の要の1つとなる可能性がある。だからこそ、今はT1について考えるべき時なのだ。
Appleのイベントで明らかにされたことは少ない。ファンクションキーに代わって搭載される新機能「Touch Bar(タッチバー)」に続き、ユーザーの指紋でログインできる「Touch ID」の詳細、そして下のスライドとともに、T1と「Secure Enclave」(セキュリティアーキテクチャ)が紹介された。明らかにされたのは、これでほぼ全てである。
Appleのイベントの翌日、arstechnicaとAppleInsiderが記事を発表したが、arstechnicaの方には興味深い詳細がいくつも掲載されていた。
それによると、「ARMv7」アーキテクチャを採用したCPUであるISP(Image Signal Processor)が搭載されている。グラフィックデータはGPUからT1に転送され、Touch Barに画像が表示される。また、Secure Enclave(Appleによる造語)は、指紋データを暗号化して保存するためのセキュリティアーキテクチャといわれている。
まずチェックすべきは、ダイだ。Appleが説明しているように、T1はSoC(System on Chip)である。コアに関しては、CPUとISPの他に、恐らくGPUも搭載されている。T1はグラフィックスベースのコアであり、メインGPUから提供されるグラフィックス情報の処理方法や、画像処理の方法に特徴があるという。
メモリに関してはどうだろうか。指紋データの保存にはSRAMのブロックを参照するのだろうか。それとも、パッケージ内に別のメモリダイがあるのだろうか。Secure Enclaveの機能のうち、暗号化は別のコアで行っていると考えられる。コアのいくつかは、Aシリーズのダイと似ていると予想される。例えば、Touch IDに関連するダイがそうだ。Touch IDはiPhoneやiPadと同じ機能なので、Aシリーズのダイと同様の処理や同量のデータが必要であり、同一のコアで処理していると考えられる。
T1には2つの機能がある。1つ目は、メインGPUからグラフィックス情報を受け取って、表示用に処理することだ。Touch Barの画像をスクロールすると、この機能を理解しやすい。メインGPUからT1にRawイメージが連続して送られる。T1はスクロール画像を作製して、Touch Barに小さく細長い長方形状に並べて表示する。その中からユーザーが選んだ画像がメインディスプレイに表示されるという形だ。2つ目は、Touch ID向けの演算機能だ。T1は、「IntelのmacOS環境」と「Aシリーズ向けに開発されたTouch IDのARMベースシステム」の間で、橋渡し的な役割を担っている。
Touch BarとTouch IDは、他のMac製品にも当然、搭載されるはずだ。デスクトップPCの場合、キーボードでこれらの機能が使えるようになるだろう。Touch BarとTouch IDを統合した新しいタイプの外付けキーボードが登場するかもしれないといわれている。その他の使い方としては、「Apple TV」のリモコンなどにも搭載できるかもしれない。
T1は、Aシリーズのプロセッサから派生したと思われる、興味深いチップだ。その性能を生かした面白い用途は、他にもありそうだ。Apple TVは、その1つだろう。IoT機器にも採用できるかもしれない。Appleは半導体ICの設計に力を入れている。Appleで開発されたチップは、同社の製品ポートフォリオの幅を広げることにつながっていくだろう。“イノベーションの王冠”を他社に引き渡すのは、まだ早そうだ。
【翻訳:青山麻由子、滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- IoT端末に最適? Apple Watch Series 2の心臓部「S2」に迫る
2016年9月に発売されたAppleの腕時計型ウェアラブル端末「Apple Watch Series 2」を取り上げる。中身の大転換が図られたiPhone 7同様、配線経路の大幅な見直しが行われた他、心臓部の「S2」でも新たな工夫が見受けられた。 - 中身が大変身した「iPhone 7」とその背景
2016年9月に発売されたAppleの新型スマートフォン「iPhone 7」。一部では、あまり目新しい新機能が搭載されておらず「新鮮味に欠ける」との評価を受けているが、分解して中身をみると、これまでのiPhoneから“大変身”を果たしているのだ。今回は、これまでのiPhoneとiPhone 7の中身を比較しつつ、どうして“大変身”が成されたのかを考察していこう。 - 「半導体業界の“Apple”を目指す」ルネサス
ルネサス エレクトロニクスが米国で開催した「DevCon 2015」では、同社の設計基盤「Renesas Synergyプラットフォーム」が大きなテーマの1つとなっていた。Renesas Electronics Americaでプレジデントを務めるAli Sebt氏は、「Synergyで半導体業界の”Apple”を目指したい」と述べる。 - TSMC、Apple「A10/A11」をほぼ独占的に製造か
TSMCは、Appleの「iPhone」向けプロセッサ「A10」および「A11」(仮称)の製造を、ほぼ独占的に製造することになるとみられている。もう1つのサプライヤーであるSamsung Electronics(サムスン電子)に対する優位性をもたらしたのは、独自のパッケージング技術「InFO」だという。