車載市場での存在感強化を狙うIntelの戦略:過熱する自動運転向けIC市場(2/2 ページ)
車載向けIC市場におけるIntelの存在感は、この1年半ほどで変わってきたのではないだろうか。とりわけ自動運転向けチップやプラットフォームの分野では、自動車メーカーやティア1サプライヤー、半導体メーカー、ソフトウェアメーカーなどの思惑が入り乱れているが、そうした中でIntelはどのように動いているのだろうか。
今は“足場固め”の時期
Intelは、自動車市場ではまだ新規参入者と見なされているため、自動運転車市場における注目度を高め、足場を得ようとしているところだ。
米国の市場調査会社であるLinley Groupでシニアアナリストを務めるMike Demler氏は、「自動車エコシステムは、パートナーシップによるネットワークで構築されている。Intelは、このようなネットワークへのコネクションを持っていないが、BMW、Mobileye、Intelのパートナー提携の場合と同様に、DelphiとMobileyeとの協業によって、それを得ることができる」と指摘する。
Intelにとって風穴となったのが、自動運転車に不可欠とされる強力なマイクロプロセッサだ。高い演算処理能力を持つプロセッサは、Mobileyeの「EyeQ」プロセッサのような専用のコンピュータビジョンチップと組み合わせて、自動運転車に搭載するコンピュータブレインとして非常に重要な役割を担う。
IntelがDelphiに提供するチップとは?
IntelがDelphiに提供する強力なプロセッサとは、どの製品なのだろうか。
少なくとも現在のところは、「Core i7」であると考えられる。
Intelは、Delphiが現在使用しているAudiの試験車のプラットフォームに、Core i7が搭載されていることを認めている。しかし、Intelの広報担当者は、「現在Audiの試験車で使われているCore i7を、今後発表する予定の新製品で置き換える予定だ。近いうちに、その詳細について発表できることを心待ちにしている」と付け加えた。
新型チップに関する詳細については、全く不明だ。Demler氏はEE Timesのインタビューに対し、「最大の疑問は、Intelが自動運転車市場向けにどのような種類のチップを開発するつもりなのか、そして実際にどれくらいの開発期間を要する予定なのかという点だ。標準性能のCore i7を搭載することが、現実的な解決策であるとは思えない」と述べている。
Intelは以前、EE Timesの取材に対し、「BMW、Mobileye、Intelによる協業体制のもと、コンピューティングブレインとして機能するチップの開発を進めているところだ。ライダー(LiDAR:レーザーレーダー)やレーダーなどから収集されるセンシングデータを統合する役割として機能する」と述べている。Intelのチップは、MobileyeのSoCと組み合わせることで、(自動運転の)アクションにつながる意思決定を行うための、コグニティブエンジンとして機能する。
Intelの経営幹部であるKathy Winter氏は、独占インタビューの中で、「現在開発中の新しいカスタムSoCは、複数の『Xeon』コアと、ハードウェアアクセラレーターを搭載する。高性能コンピューティングを実現し、電力要件も満たすはずだ。車載レベルのSoCを開発することで、機能安全も提供できる」と述べている。Winter氏は2016年11月29日に、新設されたAutomated Driving Groupのバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャーに昇進している。
IntelはEE Timesに対し、「新製品の詳細については、2017年に最終製品が完成に近づいた時点で発表するつもりだ」と述べた。
米国の市場調査会社であるStrategy Analyticsでオートモーティブプラクティス担当アソシエートディレクターを務めるMark Fitzgerald氏は、「これらのシステムが自動車プラットフォームに標準装備されるようになり、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムに向けた集中コンピューティングがトレンドになっていることを考慮すると、IntelがBMW/Intel/Mobileyeパートナーシップをベースに開発を進めている新型SoCが、Audiの試験車に搭載されているCore i7を置き換える製品になると考えられる」と指摘する。
Demler氏もこの見解に同意し、「BMWの年間販売台数は、200万台程度にすぎない。このため、IntelがBMWのためだけにチップを開発するとは考えられない」と述べる。
また、NVIDIAがAudiのzFASから追い出されることになるのかどうかを判断するには、時期尚早のようだ。Strategy AnalyticsのFitzgerald氏は、「Delphiは、ティア1以外のサプライヤーにもなじみのある、複数の半導体メーカーとの間で協業関係を構築している」と指摘した。
STとMobileyeの関係性
アナリストの中には、DelphiがIntelと組んでいることに驚きを隠せない者もいるようだ。彼らは、STMicroelectronicsとMobileyeの関係にひずみが生じ始めているのではないかと推測している。Delphiプラットフォームに搭載されているIntelのチップが、Mobileyeのソフトウェアアルゴリズムによって動作することになるからだ。Strategy AnalyticsのFitzgerald氏は、DelphiとIntel、Mobileyeの動きについて「Mobileyeは、IntelとSTMicroelectronicsの両方と協業することで“両面作戦”を採っている」と述べている。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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