SanDiskが語る、抵抗変化メモリのスイッチングモデル:福田昭のストレージ通信(49) 抵抗変化メモリの開発動向(8)
今回は、抵抗変化メモリ(ReRAM)の記憶素子におけるスイッチングの機構について説明する。スイッチング機構は、酸素の空孔あるいは酸素イオンが移動することによる酸化還元反応として説明できることが多い。
抵抗変化メモリのスイッチング機構
半導体メモリの研究開発に関する国際学会「国際メモリワークショップ(IMW:International Memory Workshop)」のショートコース(2016年5月15日)から、SanDiskによる抵抗変化メモリ(ReRAM)の研究開発動向に関する講演概要をご紹介している。今回はシリーズの8回目に相当する。
抵抗変化メモリの開発動向バックナンバー: | |
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(1) | SanDiskが語る、半導体不揮発性メモリの開発史 |
(2) | SanDiskが語る、コンピュータのメモリ階層 |
(3) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの概要 |
(4) | SanDiskが語る、ストレージ・クラス・メモリの信頼性 |
(5) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの多様な材料組成 |
(6) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの消費電流と速度 |
(7) | SanDiskが語る、抵抗変化メモリの電気伝導メカニズム |
講演者はスタッフエンジニアのYangyin CHEN氏、講演タイトルは「ReRAM for SCM application」である。タイトルにあるSCMとはストレージ・クラス・メモリ(storage class memory)の略称で、性能的に外部記憶装置(ストレージ)と主記憶(メインメモリ)の間に位置するメモリとされる。ここで性能とは、メインメモリよりもコスト(記憶容量当たりのコスト)が低く、ストレージよりも高速であることを意味する。
本シリーズの7回目である前回は、過去に国際学会で発表された抵抗変化メモリ(ReRAM)の記憶素子における電気伝導の主な原理を紹介した。今回は、抵抗変化メモリの記憶素子におけるスイッチングの主な機構を報告する。
CHEN氏の講演スライドでは、6つの研究グループによる、スイッチング機構のモデルを一覧表形式で示していた。ただし、各モデルの詳細には言及しなかった。そこで本稿では、筆者が少し説明を補足的に追加することで、読者の理解の一助としたい。
酸素の空孔と酸素イオンが主に関わり
講演スライドの一覧表に挙げられた研究グループは左から右へ、中国の北京大学(Peking University)、イタリアのミラノ工科大学(Politecnico di Milano)、米国のスタンフォード大学(Stanford University)、米国のSEMATECH、イタリアのDISMI(Dipartimento di Scienze e Metodi dell'Ingegneria)、ベルギーのimecである。
スイッチング機構をモデル化するアプローチには、現象論モデル(Phenomenological)、モンテカルロ法、分析モデル、第一原理計算(Ab-initio)が採用されている。スイッチングを媒介するのは主に、酸素の空孔(VO)と酸素イオン(O2−)である。
そしてスイッチング機構は主に、酸素の空孔あるいは酸素イオンが移動することによる酸化還元反応として説明される。スイッチング特性にはユニポーラとバイポーラがあり、バイポーラ特性はこの酸化還元反応で説明できるとほぼ、認識されている。
抵抗変化メモリのスイッチング機構に関する研究状況で留意すべきなのは、全体をうまく説明できるモデルがまだ存在していないことだろう。ほかの次世代不揮発性メモリに比べると、抵抗変化メモリにはまだ、解明されていない事柄が少なくない。
(次回に続く)
⇒「福田昭のストレージ通信」連載バックナンバー一覧
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