排熱を電力へ、熱電変換材料で2倍の出力因子実現:マンガンケイ化物系
東北大学の宮崎讓氏、林慶氏らの研究グループは2016年12月、マンガンケイ化物系熱電変換材料の発電量を表す出力因子で、従来の1.6〜2倍に相当する結果を得たと発表した。
約530℃において2.4mW/K2m
東北大学大学院工学研究科の宮崎讓氏、林慶氏らの研究グループは2016年12月、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトにおいて、マンガンケイ化物系熱電変換材料の発電量を表す出力因子で、従来の1.6〜2倍に相当する2.4mW/K2mを実現した。自動車エンジンや工業炉からの排熱など、300〜700℃の未利用熱エネルギーを電力に変換する高出力熱電発電モジュールの実現が期待できる。
熱電変換技術は、固体のゼーベック効果を利用して排熱から直接電力を得ることが可能な技術である。自動車エンジンや工場排熱など、中温域といわれる300〜700℃の未利用熱を有効に利用して、省エネルギーにつなげることが期待されている。
しかし、中温域で熱電性能の高い鉛やテルル、アンチモンなどの材料は、毒性が高く希少で低融点の元素から構成されるものが多い。そのため、原料コストが高く、空気中での使用に工夫が必要なことから、広く利用されるには至っていないという。
高マンガンケイ化物(MnSi1.7)は、地殻表面に豊富に存在する元素から構成され、熱的/化学的安定性に優れることから、熱電変換材料への応用が検討されてきた。しかし、通常の合金のように原料を高温で溶かして凝固させる手法で試料を合成すると、モノシリサイド相も析出し、導電性と機械的強度が悪化することが課題だった。
結晶構造中のケイ素(Si)をゲルマニウム(Ge)で部分置換することで、モノシリサイド相の析出を抑制できることは知られているが、ケイ素とゲルマニウムが同族元素のため、部分置換によりキャリア濃度を大幅に増加させることはできなかったとする。
同研究グループは、結晶構造中のマンガン(Mn)をバナジウム(V)で部分置換することで、モノシリサイド相の析出が抑制されるとともに、キャリア濃度を増大できることを見いだした。また、結晶構造中のマンガンをバナジウムに加えて、鉄(Fe)で部分置換した試料Si1.7が、約530℃(800K)において2.4mW/K2mとなり、これまで報告されているMnSi1.7材料の1.6〜2倍に相当する高い出力因子を示すことを発見している。
今後は、今回開発した材料がp型物質のため、同等な性能のn型材料を創製し、自動車エンジンや工業炉の排熱を利用した高出力熱電発電モジュールの開発を目指す。
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