反転層型ダイヤモンドMOSFETの動作実証に成功:「究極のパワーデバイス実現へ」
金沢大学理工研究域電子情報学系の松本翼助氏、徳田規夫氏らの研究グループは、「世界初」となるダイヤモンド半導体を用いた反転層チャンネルMOSFETを作製し、動作実証に成功したと発表した。
「世界初」の反転層型ダイヤMOSFET
金沢大学理工研究域電子情報学系の松本翼助氏、徳田規夫氏らの研究グループは2016年8月22日、「世界初」となるダイヤモンド半導体を用いた反転層チャンネルMOSFETを作製し、動作実証に成功したと発表した。
ダイヤモンド半導体は、次世代パワー半導体材料であるSiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)よりも、高い熱伝導率と絶縁破壊電界を有しているため、特に大きな電圧や電流が必要な領域での省エネルギー化につながると期待されている。ちなみに、熱伝導率はSi(シリコン)の14倍、絶縁破壊電界は同100倍である。
また、反転層チャンネルMOSFETは、低消費電力化に必要不可欠な電圧制御素子であり、パワーデバイスで最も重要で最低限必要とされるノーマリーオフ特性*)を基本的に持つため、信頼性が高く、Si半導体で広く普及している。しかし、ダイヤモンド半導体はプロセスの難しさから、良好なMOS構造を形成するのが困難だったという。
*)ノーマリーオフ特性:システムとしては動作中でも、真に動作すべき構成要素以外の電源を積極的に遮断することで、誤動作を防ぎ、消費電力を最小限に抑える特性のこと。
同研究では、ダイヤモンドを成長させる手法の1つである「マイクロ波プラズマ化学気相成長法」によるn型ダイヤモンド半導体の高品質化、ウエットアニールによる酸化膜とダイヤモンド界面の高品質化を行った。これにより、反転層チャンネルダイヤモンドMOSFETを作製(図1)し、その動作実証に成功している。
作製したMOSFETの動作を調べると、ゲート電圧をかけていないときはゲート電流も検出限界以下(ノーマリーオフ特性)であり、ゲートにかける負電圧を大きくすると、MOS界面のn型ダイヤモンド半導体に空乏層が広がり、さらに負電圧を大きくすると少数キャリアの正孔がドレインソース領域から流れ込むことで反転層チャンネルが形成され(図1右下)、ドレイン電流が流れることが明らかになった。その結果、ドレイン電流の理想的な飽和特性(図2)、高いON/OFF比を確認したとする。
同研究グループは「今後、応用に必要な大電流化と高耐圧化を図るために、MOS界面のさらなる高品質化による移動度の向上、ドレイン領域に耐圧層の導入が必要だ。しかし、将来的に、省エネ・低炭素社会に貢献する究極のパワーデバイス実現が期待できる。ダイヤモンドパワーエレクトロニクスの時代が、大きく切り開かれるだろう」と語る。
同研究は、金沢大学の研究チームと、産業技術総合研究所ダイヤモンドデバイス研究チームの山崎聡氏と加藤宙光氏、デンソーの小山和博氏らによる共同研究である。
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