研究開発における不正行為(研究不正)とは何か(後編):研究開発のダークサイド(3)(2/2 ページ)
前編に続き、「超伝導状態(電気抵抗がゼロになる状態)を出現させる材料の研究」を例に取り、「捏造」「改竄(かいざん)」「盗用」の3つの不正行為がどんなものかを具体的に考えてみよう。
「盗用(とうよう)」の悦楽
最後に「盗用(剽窃)」を説明する。盗用(剽窃)とは、一般的には他者の文章を盗みとって自分の物として発表することを指す(参考:広辞苑の「剽窃」)。研究不正における代表的な盗用とは、他者の学術論文の内容を写し取り、著者名を自分に書き換えて新たな論文として投稿することである。
論文の盗用行為で、写し取る(盗み取る)対象の学術論文は、1つとは限らない。複数の論文から一部を抜き出し、抜き出したブロック(部品)を組み合わせて1つの論文にする。このとき複数の論文は、同一の著者による論文のこともあれば、別々の著者による論文のこともある。
盗用論文の投稿先は、著名な論文誌ではなく、知名度が低い論文誌であることが多い。知名度が低い論文誌は、盗用が発覚するリスクが低いと思われているからだ。
盗用行為に手を染める研究者は、盗用論文を数多く投稿することが少なくない。自分の研究業績リストに加える学術論文の数を増やすことで、研究予算の増額や地位(ポジション)の向上などに役立てることが主要な目的だからだとみられる。
盗用(剽窃)は、他者の研究業績が対象とは限らない。自分の研究業績を対象とする盗用(剽窃)も存在する。このような行為は「自己盗用(Self Plagiarism)」あるいは「自己剽窃」と呼ばれており、研究不正と見なされる。
例えば、日本語の論文誌に掲載された内容を、ほぼそのままの内容で、まったく別の英文論文誌に投稿する(逆のケースもあり得る)。また例えば、未発表の論文を、同じ内容のままで複数の学術論文誌に投稿する(「二重投稿」とも呼ばれる)。
盗用(剽窃)行為の特長は、盗用論文の引用文献リストには普通、盗用先の論文が存在しないことだ。これは当然だろう。意図的であるが故に、証拠を残すようなことはしないからだ。
(次回に続く)
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