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トポロジカル絶縁体の表面金属状態絶縁化に成功:電気磁気効果の観測に期待(2/2 ページ)
理化学研究所などの共同研究グループは2017年2月、トポロジカル絶縁体として、表面の金属的な状態を消し絶縁化できる積層薄膜物質を作製したと発表した。
磁性/非磁性/磁性の3層構造
作製した薄膜は、磁性/非磁性/磁性の3層構造となり、磁性層の保磁力*3)に差を持たせることで、2つの磁性層の磁化方向を制御できるようになった。「このような磁化の制御法は、現在のハードディスクドライブの磁気ヘッドに用いられる巨大磁気抵抗効果(GMR)素子としてよく知られている」(共同研究グループ)。
*3)保磁力:磁性体の磁化を反転させるのに必要な外部磁場の大きさ
共同研究グループでは、作製した薄膜試料に対し、垂直方向に外部磁場を印加して磁化方向をそろえたところ、「量子異常ホール効果が観測された」とする。そして、外部磁場の印加方向を反転させて徐々に強くすると、ある大きさの磁場で保磁力の小さい層の磁化が反転。その結果、磁化の反転、2つの磁性層の磁化が反平行になる状態ができると同時に薄膜試料に電流が流れなくなり、表面が完全に絶縁化したという。
図2:積層薄膜のホール伝導度と縦伝導度の外部磁場依存性 (クリックで拡大) 出典:理化学研究所など
(a)作製したトポロジカル絶縁体薄膜と磁性トポロジカル絶縁体の積層構造。
(b)作製した薄膜を測定用に加工した試料の光学顕微鏡写真。
(C)緑の影をつけた部分が絶縁化の状態を表している。電流印加方向の電気の流れやすさを表す縦伝導度と、電流方向と垂直方向への電流の流れやすさを表すホール伝導度が同時にゼロに近づき、電流がどこにも流れにくい状態を意味している。縦伝導度とホール伝導度は測定された縦電圧とホール電圧から計算される。
「特殊な電気磁気効果観測のための物質基盤を確立」
「これは磁化の方向を制御することで、トポロジカル絶縁体の表面を絶縁化し、量子異常ホール効果から特殊な電気磁気効果の観測が期待される絶縁体状態へ変換できたことを示している。この結果は、磁性トポロジカル絶縁体の磁化方向制御によって、特殊な電気磁気効果観測のための物質基盤を確立したことになる」(共同研究グループ)としている。
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