IntelによるMobileye買収、アナリストの反応は:業界を驚かせた買収発表(2/2 ページ)
IntelがMobileyeを買収することで合意したと発表した。自動運転車向けのコンピュータビジョン技術において既に同分野をけん引する存在であるMobileyeが買収されるというこの発表は、業界を驚かせた。調査会社のアナリストなど、業界の専門家はこの動きをどう見ているのだろうか。
両社が担う相補的役割とは?
しかし同氏は、「IntelとMobileyeは、互いのことを全く知らないわけではない。両社はこれまで、1年以上にわたり、BMWとIntel、Mobileyeの3社によるパートナー提携や、Delphi Automotive(以下、Delphi)とのプロジェクトなどを通して、密接な協業関係を構築してきた。両社とも、それぞれが担う補完的役割について、よく理解している」と述べる。
両社の分業については、既知の通りだ。Mobileyeは、ビジョンプロセッシングや、カメラのアルゴリズムの動作、複数のカメラから収集したデータの統合などを担う。
Mobileyeは、自動車メーカーやティア1サプライヤーにブラックボックスを提供し、その中でMobileyeのハードウェアと、独自開発のデータセットおよびアルゴリズムとを組み合わせる。これにより、ADASコンピュータビジョンチップ市場において、誰もが認めるリーダー企業としての地位を確立してきた。
一方、Intelはこれまで、高性能自動運転車プラットフォーム市場の車載コンピューティングとコネクティビティ、データセンターの3つの分野において、主導的な地位獲得を目指してきた。つまり同社は、自動車産業における役割をエンド・ツー・エンドで担うという目標を掲げているのだ。
MobileyeのDagan氏が説明するように、自動運転車には、2つの相補的な技術ソリューションが不可欠だ。1つは、Mobileyeがコンピュータビジョン向けに開発したブラックボックス(設定の柔軟性やオープン性には欠けるが)のような技術である。
もう1つは、コンピュータ集約型のプラットフォームだ。Winter氏は、EE Timesのインタビューに対し、「自動運転車には、完全な自動運転車の実現が見込まれる2025年までに、データの収集および引き出しにおいて、数十億画素やテラバイト規模のストレージに対応可能な、コンピュータ集約型のプラットフォームが必要だ」と述べている。
同氏は、BMW、Intel、Mobileyeが提携して開発に取り組んでいるプラットフォームについて問われると、「MobileyeのEye Q5チップと、Intelが独自に開発しているSoC(System on Chip)の2つについては、いずれも順調に開発が進んでいる。複数の『Xeon』コアと、統合型ハードウェアアクセラレーションユニットによって構成されている」と述べる。
敗者は誰か
自動車業界の観測筋は、「IntelとMobileyeは今回の買収により、今後の自動運転車市場のデザインインに関して、競合他社に対する大きな優位性を獲得できる」とみているようだ。
IHS Markitの自動車半導体部門で主席アナリストを務めるLuca De Ambroggi氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「Audiが開発した中央制御ユニット『zFAS』を思い出してほしい。Audiは、zFASの開発に当たり、Delphiとパートナー契約を締結し、NVIDIAとMobileyeのチップを統合した」と述べる。
MobileyeがIntelの事業部門の一部になれば、NVIDIAにとって、今後の展望は非常に不安定なものになる。
De Ambroggi氏は、「ティア1サプライヤーだけでなく自動車メーカーも、さまざまなSoCメーカーとのプラグアンドプレイが可能な、拡張性に優れたプラットフォームの実現を目指している。IntelとMobileyeは、こうした状況の中で合併することにより、バンドリング効果(複数の商品やサービスを1つのセットとして提供する手法)を期待できる。顧客と交渉する際、自分たちの製品を他社品に置き換えられてしまうというリスクを低減できる可能性もある」と述べている。
De Ambroggi氏は、具体的なメーカー名は明かさなかったが、「どのメーカーも弱くなってきている」と述べた。
VSIのMagney氏は、「今回の買収は、組み込み側のバリューチェーンにおける従来のサプライヤーにとっては、プレッシャーとなるだろう」と述べる。「一方でQualcommおよびNXP Semiconductors、Infineon Technologies、ルネサス エレクトロニクス、Texas Instruments(TI)、NVIDIAは、今回のニュースに興味を持っていることだろう」(同氏)
Magney氏は、「もちろん、Intelにとって今回の買収は極めて価値があるものだ。業界はIntelの決断を理解するだろう。Intelは、自動運転技術に必要なノウハウが全てそろうエコシステムの構築に取り組んできた」と続けた。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- Intel方針転換の真意を探る
2016年、Intelはモバイル事業からの撤退を決めるなど方針転換を行った。そうした方針転換の真の狙いを、Thunderbolt用チップ、そして、7年前のTSMCとの戦略的提携から読み取ってみたい。 - BMW、Mobileyeと組んだIntelの思惑とは(前編)
IntelとBMW Group、Mobileyeは2016年7月、自動運転車の開発で提携すると発表した。この3社におけるIntelの役割とは何なのだろうか。 - ADASはカメラ+レーダー+ライダーの三位一体で
Infineon Technologies(インフィニオン・テクノロジー)は、ドイツ・ミュンヘンで開催された「electronica 2016」(2016年11月8〜11日)で、ADAS(先進運転支援システム)向けのセンサーシステムなどを展示した。Infineonは、ADASには、カメラ、レーダー、ライダーの3つが必要で、どれ1つとして欠かすことはできないと強調する。 - オンセミ、IBMの車載レーダー用ミリ波技術を買収
ON Semiconductor(オン・セミコンダクター)は2017年3月6日、車載センシング事業の強化の一環として、IBMの車載レーダー用ミリ波技術と関連資産を買収すると発表した。 - Qualcomm/NXPの合併に立ちはだかる米中政府の壁(前編)
QualcommによるNXP Semiconductorsの買収は、2016年に発表された大型M&A案件の1つである。この買収は2017年末に完了する見込みだが、米国政府と中国政府という2つの大きな壁によって、買収完了が長引く可能性がある。 - 理研、東芝とNEC、富士通の3社とAI研究で連携へ
理化学研究所(理研)は2017年3月10日、東芝、NEC、富士通の各社と、理研革新知能統合研究センター内に連携センターを開設する。設置期間は、2017年4月1日から2022年3月31日までの予定だ。