IntelとMobileyeの独占状態、吉か凶か:車載市場版“Wintel”(2/2 ページ)
IntelによるMobileyeの買収発表は、業界にさまざまな反応を引き起こした。専門家の見解は両極端だが、この2社によって自動運転車市場が独占されるのではないか、そしてそれは、健全な競争を妨げるのではないかという懸念は確実に存在する。
MobileyeはIntelの“扉”
技術顧問サービスを手掛けるVision Systems Intelligenceの創業者で主席アナリストでもあるPhil Magney氏によれば、自動車業界のアナリストたちは、IntelのMobileye買収を“テーブルに席を確保する行為”だと考えているようだ。IHS Markitによると、この買収により、Intelは「車載インフォテインメントと自動運転アプリケーションに向けた、ハードウェアおよびソフトウェアを提供するワンストップショップ」になれるのだという。
Intelの動きを理解するための鍵は、過去数年にわたり、MobileyeがADAS(先進運転支援システム)市場でいかに強力に成長してきたかを知ることにある。
IHS Markitのアナリストによれば、Mobileyeはフロントビューカメラ用プロセッサ市場で約80%のシェアを獲得しているという。そのため、IntelにとってMobileyeは、世界中の自動車メーカーやティア1サプライヤーへの道を開いてくれる存在だといえる。Intelは、自動運転車のサプライチェーンにおける地位を固めることができるというわけだ。
QualcommがNXPを買収する必要があったのも、これと同じ理由からである。QualcommはNXPの買収を通じて、伝統的に閉鎖的である自動車メーカーとティア1サプライヤーが支配する、極めて将来性のある自動運転車市場へのアクセス権を得たということだ。
IHS Markitのアナリストらは「Intelは今や、物体認識、センサーフュージョン、経路計画、ローカリゼーション(Mobileyeの「REM(Road Experience Management)」技術)、コネクティビティー、テレマティックスといった、自動運転車向けアーキテクチャの重要な構成要素を手に入れた」と結論付けている。
さらにIHS Markitは、「Mobileyeのプロセッサファミリー『EyeQ』には、高度なマシンビジョンアルゴリズムが実装されていて、発売以降、平均販売価格(ASP)が上昇し続けている他、高いマージンを維持している」と強調した。
今回の買収は、IntelとMobileyeにとって理にかなったことのように思えるが、懸念もある。2社にはそれぞれ、圧倒的シェアを持つ市場がある。IntelであればPC、Mobileyeであればオートモーティブビジョンだ。
“Wintel”のような独占への恐れと嫌悪
IntelとMobileyeはいずれも高く評価される企業である一方で、それぞれの競合先では、恐怖や嫌悪を感じさせる存在として、何気ない会話の中に出てくることもある。競合先では、自社の製品がいかに優れているかを説明する際、「Intelキラー」「Mobileyeキラー」といったフレーズが好んで使われることがあるほどだ。
エレクトロニクス業界で支配力を持つ2社のプレイヤーが手を組むという図式は、PC時代における“Wintel”を思い起こさせる。
STMicroelectronicsの元シニアエグゼクティブで、現在Cogito InstrumentsのCEOを務めるPhilippe Lambinet氏は、「Intelが、かつてPC市場においてMicrosoftと“Wintel”時代を築いたように、Mobileyeと組むことで車載市場でも第2の“Wintel”を築こうとしている」と、かなり早い段階で指摘していた。
Intelが買収を発表した後、Lambinet氏はこう問いかけている。「車載市場の顧客は、この事態を恐れているのだろうか。PC市場では、“Wintel”はほとんど全てを掌握していた。車載市場でも同様のことが起こるのだろうか」
この答えはまだ分からない。だが、懸念すべきなのは、Intelが自動運転車向けソリューションのワンストップショップになることで、潜在的な競争相手が消えてしまうのではないかということだ。IHS Markitの車載エレクトロニクス部門で主席アナリストを務めるLuca De Ambroggi氏は、このように指摘した。
【翻訳:青山麻由子、編集:EE Times Japan】
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