誰もが“当事者”になれ、社内改革の主役はあくまで自分:“異端児エンジニア”が仕掛けた社内改革、執念の180日(11)(4/4 ページ)
東京コンサルティングの杉谷と若菜は、須藤たちにプロジェクトの骨子の1つとなる業務プロセスについて話し始める。それは職場の「見える化」と「言える化」を並行して進めることでもあった。ただし杉谷と若菜は、「大切なのは、コンサル会社に頼ることではなく、常に自分たちが“当事者”となることだ」と、こんこんと説く。
バトンは渡さない――「誰もが当事者」
須藤:「ちなみに、見える化は誰がやるんですか?」
大森:「みんな忙しいから、若菜さんたちがやってくれるんでしょ?」
若菜:「やりません」(ここでもバッサリとぶった切る)
佐伯:「今までの話の流れを聞いていて、みんな分からないかな? われわれが自分たちでやるんだよ。ですよね? 杉谷さん、若菜さん」
杉谷・若菜:「その通りです!」
杉谷と若菜は、図4を示して説明を始めた。
杉谷・若菜:「“見える化”は、大きく3つのフェーズ(上の図でいうと1stから3rdまで)に分かれていますが、黄色の枠の中に書いたように、“自分たちでやる”が基本です」
多くのコンサルティング会社は、まずは現状分析と称して、あれこれ調査やヒアリングを行う。業務分析1つとっても、実にスマートな業務フローを書く。そして、「あるべき姿(To be Model)はこうだ。御社はここ(As is Model)で到底至らない。このギャップが御社の課題だ」と(偉そうに上から目線で)分析し、分厚い報告書を書いて皆さんの手元に送る。そして、解決策を考え、計画表まで作る。
クライアント側(つまり皆さん)は、「コンサルティング会社は、実に素晴らしい」と思っているかもしれない。だが、実行フェーズになれば、コンサルティング会社が立てた計画を実行するのは皆さんなのだ。
それまでは、バトンを握っていたのはコンサルティング会社だったかもしれない。つまり、PDCA(Plan-Do-Check-Action)のPlanまではコンサルティング会社がやってくれた。しかし、Doは皆さん自身が行うべきフェーズだ。コンサルティング会社に頼りきりでは、バトンを渡された瞬間に、戸惑うことは目に見えている。そして、他人の作った計画には、なかなか素直に従えないのも、これもまた人間の性(さが)なのだ。
湘エレでも、コンサルティング会社任せのやり方では絶対にうまくいかない(もっとも、湘エレに限らずどこの会社もそうだが……)。
ポイントは、「バトンを渡さない」ということだ。分かりやすく言えば、「PDCAサイクルにおいてP(Plan)とD(Do)は、同一人物でなければ動機づけができない」のである。
基本的な考え方は、「自分で作り・決めて・実行する」ことである。自分以外の誰かが会社を良くしてくれるという、ある意味、他力本願のようなスタンスでは、本気モードのスイッチは入らないし、会社は絶対に良くならない。須藤たちの場合でいえば、「外部のTコンサルは改革の当事者ではなく、改革の支援者である」ということは、常に肝に命じておくべきなのだ。
まだ現場からの反発はあったが、少しずつ、須藤たちの動きを応援するような若手も出てきた。一方で、この活動に否定的で、元々、事あるごとに須藤に難癖をつけてきた上司の森田のような人間もいる。そして、会社を窮地に追いやった張本人である不正の黒幕が、須藤たちプロジェクトコアメンバーが知らない間に、各部門にあれこれと画策し始めていた――。
業務上の問題が徐々に明らかになる中で、プロジェクト反対派や不正の黒幕たちに対し、須藤たちはどう立ち向かうのか。次回をお楽しみに。
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Profile
世古雅人(せこ まさひと)
工学部電子通信工学科を卒業後、1987年に電子計測器メーカーに入社、光通信用電子計測器のハードウェア設計開発に従事する。1988年より2年間、通商産業省(現 経済産業省)管轄の研究機関にて光デバイスの基礎研究に携わり、延べ13年を開発設計と研究開発の現場で過ごす。その後、組織・業務コンサルティング会社や上場企業の経営企画業務や、開発・技術部門の“現場上がり”の経験や知識を生かしたコンサルティング業務に従事。
2009年5月に株式会社カレンコンサルティングを設立。現場の自主性を重視した「プロセス共有型」のコンサルティングスタイルを提唱。2012年からEE Times Japanにて『いまどきエンジニアの育て方』『”AI”はどこへ行った?』『勝ち抜くための組織づくりと製品アーキテクチャ』などのコラムを連載。書籍に、『上流モデリングによる業務改善手法入門(技術評論社)』、コラム記事をまとめた『いまどきエンジニアの育て方(C&R研究所)』がある。
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