特許係争の危機にさらされる半導体企業:日本メーカーも狙われている(2/2 ページ)
激しい合併買収の波が押し寄せている半導体業界では、これまで以上に多くの半導体メーカーが“パテント・トロール(特許トロール)”のターゲットとして狙われるという、予期せぬ事態が生じている。
日本の特許も狙われている
技術情報サービスを手掛けるUBM TechInsightsでIP(Intellectual Property)サービス担当シニアバイスプレジデントを務めるMike McLean氏は、EE Timesのインタビューに応じ、「NPEの活動が加速しているという現状は、米国に限られたことではない。大規模なNPEにとっては、日本も主要な“特許供給源”となっている」と述べている。
では、WiLANやAcacia Research Corporationとは一体何者なのだろうか。
Yole Développementによると、現在最大の脅威と見なされているのは、間違いなくWiLANだという。WiLANは、特許を取得してから平均2年以内に訴訟を起こしているのだ。
Yole Développementは、WiLANが次なるターゲットに定める可能性がある企業として、AppleやHP(Hewlett-Packard)、Micron Technology、Amkor Technology、Cypress Semiconductor、Nanya Technology、UMC、Qualcomm、東芝、Texas Instruments(TI)、富士通、シャープ、ソシオネクスト、ソニー、ニコン、キヤノン、Philips、Intel、日立製作所、Broadcom、OmniVision、Samsung Electronicsなどを挙げている。
EE Timesは、KnowMadeの特許および技術分野のアナリストであるFleur Thissandier氏とAudrey Bastard氏に、WiLANが半導体市場において提起した特許訴訟の具体例について質問した。
KnowMadeのアナリストたちによれば、WiLANは2016年に、17件の訴訟を起こしている。これらの特許訴訟は、WiLANが2015〜2016年に開始した訴訟活動の一環として行われたもので、そのほとんどがまだ係争中だという。
WiLANの特許訴訟はメモリ関連が多い
WiLANによる最近の特許訴訟は、SRAMやDDR SDRAM、DRAM、フラッシュメモリなど半導体メモリに関わるものが多い。
そのため、ターゲットになる可能性がある企業としては、IDTやNanya Technology、UMC、Etron Technology、東芝、ISSI、ESMTなどが挙げられる。WiLANの子会社である2社、North Star InnovationsとPLL Technologiesは2017年初頭、Nanya Technologyとの間でライセンス供与に合意したと発表している。
KnowMadeは、2015年から始動した、半導体メモリ市場におけるWiLANの訴訟活動の現状について、「Etron Technologyの訴訟は現在もまだ続いているが、その他の訴訟は、直近わずか6カ月の間に、それぞれのタイミングで全て終了している」と述べる。
KnowMadeによれば、WiLANが2016年に、Kingstonに対して起こしたSDDおよびDRAM関連の訴訟は、現在も係争中だ。また、WiLANは同年、NVIDIAやDellに対してもモバイルプロセッサ関連の訴訟を起こしていて、これもまだ継続中だという。
ここで重要なのが、WiLANは、ライセンス供与契約の価値について、自社のプレスリリースでは一切公表しないという点だ。他のライセンス契約に関する条件についても、全て企業秘密にしている。
Acaciaも攻勢に出ている
Yole Développementは、「Acaciaは過去何年間にもわたり、数々の特許訴訟を繰り広げてきたことから、半導体市場において最も注意すべきPLCだといえる。Acaciaは、今後もこうした訴訟を積極的に行っていくとみられる。今後数年の間にターゲットに定められる恐れのある企業としては、SamsungやTI、Micron、SK Hynix、シャープ、Cypress、富士通、UMC、Intel、東芝、Broadcom、IBM、Analog Devices、AMD、Xilinx、Honeywell、HP、ソニー、Siemens、Infineonなどが挙げられる」とした。
加えて、Yole Développementは、「半導体サプライチェーンのあらゆる階層の企業が、PLCのターゲットになる可能性がある」と警告している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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