マイクロ波でマグネシウム製錬、省エネ化に成功:アンテナ構造で生成効率向上
東京工業大学は、マイクロ波を用いてマグネシウム製錬を行い、従来に比べてエネルギーを約70%も削減することに成功した。
大気汚染物質や二酸化炭素の発生/放出を抑える
東京工業大学物質理工学院応用化学系の和田雄二教授と藤井知特任教授らの研究グループは2017年4月、マイクロ波を用いてマグネシウム製錬を行ったところ、従来に比べてエネルギーを約70%も削減することに成功したと発表した。
和田氏らは、マイクロ波を再生可能エネルギー分野に応用する研究をオリコン・エナジーと共同で2013年11月より始めた。2014年には大学内に共同研究講座を設け、金属マグネシウムの製錬に関する研究を行ってきた。今回はその成果である。
マグネシウムの製錬には現在、ピジョン法(熱還元法)が用いられている。この方法は、ドロマイト鉱石とケイ素鉄を高温で加熱し、蒸気になったマグネシウムを冷却して金属マグネシウムを得る方法である。しかし、この方法だと精錬を行う時に大量の石炭を燃焼させることから、大気汚染などが問題となっている。
研究グループは今回、還元剤にフェロシリコンを用いた。ドロマイトとフェロシリコンを混合したペレット原料を積み上げ、2.45GHzの周波数に共振するアンテナ構造とした。これによって、照射されたマイクロ波のエネルギーをペレット内に集めやすくし、より低温で還元させることに成功した。精錬における平均反応温度は1000℃で、従来の1200〜1400℃に比べると大きく下がった。
小規模実験炉を用いた実験では、金属マグネシウム1gの精錬に成功した。さらに、この炉より約5倍大きい実証炉を作製し実験を行ったところ、約7gの金属マグネシウムを精錬することができたという。しかも、精錬に必要なエネルギーは従来方法に比べて68.6%も削減した。
研究グループは、今回開発した方法について、酸化物の高温還元プロセスに適用できる可能性が高まったとして、他の金属材料の精錬などにも適用していく。これによって、これらの製造プロセスにおける省エネルギー化や二酸化炭素の削減を加速していく考えである。
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