常識外れの“超ハイブリッドチップ”が支える中国格安スマホ:製品分解で探るアジアの新トレンド(16)(3/3 ページ)
中国Ulefoneが発売した「Ulefone U007」は、わずか54米ドルという超格安スマートフォンだ。なぜ、これほどまでの低価格を実現できたのか。スマートフォンを分解して現れたのは、常識を覆すほど“ハイブリッド化”された台湾製チップと多くの中国製チップだった。
共通のチップを使う
図3は、MT6580のチップの配線層を剥離し内部を観察した様子である。RFトランシーバー(2G、3G、Wi-Fi、BluetoothおよびGNSS)、各種メディア機能、汎用CPU、通信用プロセッサなど、通常は3チップで構成されるものが、たった1チップに収まっている。
これは脅威的な技術である。特性の異なる通信や、性質の異なる信号処理を1チップに収めることは、異物混在としてチップ屋にとっては最も難解な仕事の1つであるからだ。
こうした“超ハイブリッドチップ化”によって、大幅なコスト削減を可能にし、その結果、54米ドルという低価格のスマートフォンが誕生したわけだ。ちなみにMT6580のチップ面積は、ほぼ5mm角である。極めて小さなサイズに上記の機能を盛り込んでいる。通常3チップ必要だったものが1チップで済むことは、基板設計も容易にし、フットプリントの大幅な削減にも寄与している。
MT6350でも同様に、電源ICとオーディオICという、通常2チップで構成されるものが、1つに集約されている。
通常は5つのチップから成るチップセットが、たった2チップで構成されていることになる。実に6割も部品削減が行われているのだ。
図4は、MT6580のパッケージ内部と、別製品で使われている通信チップ「MT6627」(Wi-Fi/Bluetooth/GNSS/FMに対応)の内部を比較したものである。機能チップは別々だが、アンテナスイッチのチップは同じものが使われている。
数年前までのMediaTekは、アンテナスイッチのようなチップを扱っていなかった。しかし、さまざまな通信が使われるようになってから、それらの通信機能を自らのチップ内に搭載するようになった。
以前は別のメーカーの製品を用いて実現していた機能を、現在は自社のチップに搭載している。これは、従来メーカーが弾き出されたことを意味する。しかも、同じアンテナスイッチをMT6580とMT6627といった異なるチップに組み込み、それぞれに同じ特性を提供できるとともに、部品と共通化することでコストダウンにも寄与している。
こうした工夫の積み重ねが、54米ドルのスマートフォンを生み出し、支えている。果たしてこの価格、そして、このスマートフォンの内部構造を今の日本メーカーが実現できるだろうか――。一考する必要があるだろう。なぜなら、ここで紹介した設計上の工夫は、IoT(モノのインターネット)のエッジ側端末に搭載するチップの在り方にも十分、通じるからだ。
⇒「製品分解で探るアジアの新トレンド」連載バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
初代ファミコンとクラシックミニのチップ解剖で見えた“半導体の1/3世紀”
家庭用テレビゲーム機「任天堂ファミリーコンピュータ」の発売からおおよそ“1/3世紀”を経た2016年11月にその復刻版といえる「ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ」が発売された。今回は、この2つの“ファミコン”をチップまで分解して、1/3世紀という時を経て、半導体はどう変わったのかを見ていく。半導体市場における中国の脅威、米政府が報告
半導体産業における中国の脅威について、米政府が報告書をまとめた。中国政府の半導体強化政策を批判しているわけではなく、中国企業による米国半導体企業の買収が、米国の安全を脅かすものになり得る場合もあると指摘し、中国メーカーが市場をゆがめるようなM&A政策を採った場合は、これを阻止するよう提言している。中国のメモリ市場、2017年はどう動くのか(後編)
メモリ分野に注力する中国。後編では、台頭しつつある中国のメモリチップメーカーの動きを探る。Intelの高性能・高密度パッケージング技術「EMIB」の概要
今回は、Intelが開発した2.nD(2.n次元)のパッケージング技術「EMIB(Embedded Multi-die Interconnect Bridge)」を解説する。EMIBではシリコンインターポーザの代わりに「シリコンブリッジ」を使う。その利点とは何だろうか。陰湿な人工知能 〜「ハズレ」の中から「マシな奴」を選ぶ
「せっかく参加したけど、この合コンはハズレだ」――。いえいえ、結論を急がないでください。「イケてない奴」の中から「マシな奴」を選ぶという、大変興味深い人工知能技術があるのです。今回はその技術を、「グルメな彼氏を姉妹で奪い合う」という泥沼な(?)シチュエーションを設定して解説しましょう。自動車市場に本腰を入れる台湾
台湾が、本格的に自動車市場に狙いを定めている。現時点では、自動車分野にキープレイヤーとなる台湾メーカーはないものの、PC事業やファウンドリー事業における成功事例を持つ台湾は、車載分野においても力をつけていく可能性がある。