東京大学、固体中で特定方向への放熱に成功:ICの放熱対策、新たな選択肢(2/2 ページ)
東京大学生産技術研究所の野村政宏准教授らは、固体中で熱流を一点に集中させる「集熱」に成功した。新たな熱制御方法として期待される。
2つの研究成果
今回の研究では、2つの成果が得られたという。1つは、ナノ構造を直線的に配列することで、熱流に指向性を与えられることを実証した。温度勾配方向に対して縦横に規則正しく円孔を配列した構造(フォノニック結晶)中を、フォノンがどのように移動するかを確認するため、物理モデルを構築して計算した。この結果、下から上に向かって熱が流れるとき、フォノニック結晶構造を抜けてきたフォノンは真上および、真横方向に進む傾向が見られ、指向性を持つことが分かった。
これを実験で確認するため、周期320nmのフォノニック結晶構造を抜けたフォノンが、細線構造に入りやすい構造(結合構造)と、半周期横方向にずらして入りづらくした構造(非結合構造)を用意し、その熱散逸時間を計測した。この結果、結合構造では非結合構造に比べて、熱散逸時間が低温で16%、室温で7%も速いことが分かった。
もう1つは、ナノ構造を放射状に配置してレンズのような働きを持たせ、固体中の熱を一点に集中させる「集熱」を実現したことである。実験を行うため、指向性を持った熱流が焦点を形成するよう、放射状に円孔を配置した構造を作製した。熱が下から上に流れるようにすることで、フォノンは焦点に向かって移動し、熱流が焦点に集中することがシミュレーション結果により判明した。
実証実験では、焦点位置とそこから右にずらした位置に熱の逃げ道となるスリットを設けた構造を複数用意して、それぞれの熱散逸時間を実測、比較した。この結果から、スリットが焦点位置にある場合は最も熱散逸が速く、スリットが焦点位置からずれるほど熱散逸が遅くなることが分かった。レンズ構造がないと熱散逸時間はスリット位置に依存しないことも確認している。
今回の研究成果は、先端ICなどにおける放熱性能の向上や、熱流を考慮した構造設計などへの応用が期待されている。
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