ムーアの法則は健在! 10nmに突入したGalaxy搭載プロセッサの変遷:この10年で起こったこと、次の10年で起こること(16)(3/3 ページ)
今回はSamsung Electronicsの最新スマートフォン「Galaxy S8+」に搭載されているプロセッサ「Exynos8895」を中心に、Galaxy Sシリーズ搭載プロセッサの進化の変遷を見ていく。そこには、ムーアの法則の健在ぶりが垣間見えた。
世界初の量産10nmプロセッサの実力
図4は、プロセッサのチップ開封を行い内部の構造が観察できるように配線層を剥離して観察した写真に一部着色を行ったものである。
Exynos8895は、世界初の量産10nmプロセッサの1つだ(同時期にQualcommのSnapdragon835など他の10nmチップも市販化されている)。図4では、前世代の14nmプロセスを用いたExynos8890との比較も行った。14nmのExynos8890では、チップ上にMP12(12コア)搭載であったGPUが、10nmのExynos8895ではMP20(20コア)を搭載できている。いわゆるムーアの法則は健在である。
GPUの回路規模としては1.66倍になっている。さらにCPU部はほぼ面積が3分の2以下になっていることが確認できた。14nmプロセスから10nmプロセスになることで、機能の大幅な向上が実現できていることに加え、低電圧化が進み、電圧の2乗の差分が電力削減として表れている。すなわち性能があがり、電力が減るというトレードオフのない、進化を得られるものになっている!!
進化を傍観するしかない状況……
2017年は多くのメーカーが10nm製品を市場に投入する。HiSiliconの「Kirin 970」、MediaTekの「Helio X30」などだ。
さらにはIntelの10nm CPUやNVIDIAの次世代GPUなども出てくるだろう。まだまだ半導体プロセス技術の進化はムーアの法則通りに「半導体の機能向上」に寄与しているのだ。ここで書き加えておきたい問題は、こうした最先端のチップが日本から生まれていないことだ。日本メーカーから10nmが出てこないまま、2017年は過ぎてしまう……のかもしれない。
昨年、2016年夏の話になるが、米国の大学関係者と話す機会があった。米国のロジック系研究で大学が扱うチップは10nm世代チップがほとんどだと聞いた。米国で半導体を学ぶ学生は10nm世代から半導体ライフが始まる――。一方10nmにたどり着けないベテランの多い日本。最先端プロセスには頼らない半導体の進化も確かに多い。しかしロジック系、特にAIなどのような並列演算器の領域では、より多くの演算器を搭載できるがゆえに最先端プロセスの方が優位であることは絶対だ。ソフトウェアエンジニアの力も引き出しやすいチップは、先端プロセスを用いる方が作りやすい。今、われわれ日本は海外の進化を傍観するしかない状況にある――。
次回はGalaxy S8に搭載されているチップセットについて言及したい。
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筆者Profile
清水洋治(しみず ひろはる)/技術コンサルタント
ルネサス エレクトロニクスや米国のスタートアップなど半導体メーカーにて2015年まで30年間にわたって半導体開発やマーケット活動に従事した。さまざまな応用の中で求められる半導体について、豊富な知見と経験を持っている。現在は、半導体、基板および、それらを搭載する電気製品、工業製品、装置類などの調査・解析、修復・再生などを手掛けるテカナリエの代表取締役兼上席アナリスト。テカナリエは設計コンサルタントや人材育成なども行っている。
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