東京大学、熱の波動性を用いて熱伝導を制御:熱伝導計測用の光学システム開発
東京大学生産技術研究所の野村政宏准教授らは、熱の波動性を利用して、熱伝導を制御できることを初めて実証した。【訂正あり】
高度な熱伝導制御、新たな段階へ
東京大学生産技術研究所の野村政宏准教授らによる研究グループは2017年8月、熱の波動性を利用することによって、熱伝導を制御できることを初めて実証したと発表した。
熱伝導はこれまで、熱を運ぶ粒子(フォノン)の移動でほぼ説明されてきた。しかし、振動が伝搬するという波動性を持ち合わせているため、可干渉性が保たれた周期的な構造においては、干渉によって熱伝導が変化する可能性も指摘されていた。ところが、これまでの電気的な測定方法だと、一度に測定できる数が限られており、系統的で誤差が小さい測定を行うのは難しかった。
【訂正:2017年8月7日午後3時12分、初出で「熱を運ぶ粒子(フォトン)」との記載がありましたが、正しくは「熱を運ぶ粒子(フォノン)」となります。お詫びして修正致します。】
そこで研究グループは、光を用い非接触で高精度に熱伝導計測を行うことができる高速測定システムを新たに開発した。また、厚みが150nmのシリコン薄膜に、半径100nmの円孔をあけた両持ちはり構造の試料を作製した。開発した測定システムを用いて、はりの中央にあるアルミ薄膜を光パルスで瞬時に加熱した。これとは別に用意した温度変化を観測するためのレーザーを用いて、ナノ構造を通じた熱散逸時間を測定した。実験は液体ヘリウムを用い3.7Kの温度環境で行った。
従来の電気的な測定方法だと、1cm角の半導体チップ上に数個の構造しか用意できなかった。今回の光学的な測定方法だと、同一チップ上に約1万個の構造を用意することができる。このため、極めて多くの構造について測定することが可能となった。
実験では、完全な周期性を持ったフォノニック結晶と円孔の位置について、方向とシフト量をそれぞれ、ランダムにずらした構造を多数用意し、それぞれの熱伝導を測定し比べた。特に、円孔の半径と数は同じにした。これによって、粒子的描像で説明できる散乱の効果をほぼ同じに保ちつつ、波動性に起因する熱伝導の低減を抽出して観測できるようにした。
実験は一次元および、二次元フォノニックナノ構造の両方について行った。周期性が完全な人工結晶ほど熱散逸レートが低く、熱が伝わりにくいことが分かった。また、一次元構造では10%、二次元構造では20%近い熱散逸レートの差を観測することができた。これらの結果は、完全結晶で熱伝導が抑制されるという理論的な予測と一致しているという。円孔側壁における散乱過程で、波の可干渉性が破壊されないよう、より滑らかに表面加工を行うことができれば、さらに大きな効果が期待できるとみている。
熱制御においても、熱の波動的性質を利用した伝熱制御技術の研究が進んでいる。研究グループでは今回の研究を、フォノンエンジニアリング分野の基礎研究を、さらに発展させることができる成果とみている。
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