妨害波に強い802.15.4k、ラピスが対応LSIを開発:日本の電波法と相性がよいLPWA(2/2 ページ)
ロームグループのラピスセミコンダクタがプレスセミナーで、同社一押しのLPWA無線通信規格であるIEEE802.15.4k(以下、802.15.4k)に対応した無線通信LSI「ML7404」を開発したと発表。さらに、LPWAの中で802.15.4kを支持する理由を説明した。
日本の電波法にぴったりの802.15.4k
ラピスセミコンダクタが802.15.4kに注目するもう1つの理由は、日本の電波法との相性の良さだ。日本でのLPWA無線通信の単位チャンネル幅は200kHzだが、LoRaは125kHz、SIGFOXは200Hzしか使用しない。つまり、キャリアセンス帯幅とキャリア周波数帯幅が異なる。しかし、使用チャンネル幅全体をキャリアセンスするよう、日本の電波法は定めている。
そのため、LPWAやSIGFOXではキャリアセンスのためにRF回路のパラメータを変更する必要がある。また、キャリアセンス帯域の回路もLSIに実装しなければならない。一方、802.15.4kは2チャンネル(400kHz)を占用するため、そのような対策は必要ない。
IEEE802.15.4kの欠点を補う
802.15.4kには利点もあるが、欠点もある。例えば、SIGFOXは世界30カ国で採用された実績があり、日本でも京セラが2018年中の完了をめどに全国展開を進めているが、802.15.4kの普及への取り組みはさほど進展していない。
その上、802.15.4kはプロトコルスタックの規定がない。そのため、現状では相互接続性、各レイヤーの開発容易性、横展開の容易性、既存設備やインフラとの接続性に不備がある。
これらの弱点を克服するため、ラピスセミコンダクタはパートナー企業と協力し、プロトコルスタックをオープンソースとして提供する。「これをデファクトスタンダードとしたい」(野田氏)。また、ML7404をマイコンやアンテナなどと一緒にモジュールで展開するという。
SIGFOX対応の無線通信LSIとしても工夫を凝らす
ML7404の特長は802.15.4kへ対応したことだけでなく、SIGFOX使用時の消費電流を押し下げるためにBPSK変調(二位相偏移変調)回路を搭載したところにもある。
SIGFOXでは周波数の変調にBPSK変調を使用するが、SIGFOXに対応した従来の無線通信LSIは、BPSK変調に対応していなかった。そのため、従来の無線通信LSIでは制御マイコンのソフトウェアでBPSKのシンボルデータを作製する必要があった。
だが、この方法では、通信のたびにマイコンを駆動し、コード変換しなければならず、無駄な消費電力が生じる。一方、ML7404はBPSK変調(二位相偏移変調)回路を搭載したため、シンボルデータ作製のために通信時にマイコンを駆動させる必要がなく、SIGFOX使用時の消費電力を削減できる。
野田氏は、「LPWAはまだ黎明(れいめい)期であり、どの無線通信規格が最終的に勝ち馬に乗るかは分からない。ML7404を802.15.4kだけでなく、SIGFOXにも対応させたのはそれが理由である。妨害波に強い802.15.4kと、普及が進むSIGFOX、用途に応じて使い分けるのが肝要だ」と語った。
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