AI発展のため、脳の研究に立ち返る科学者たち:海馬や小脳に匹敵する機能を(2/2 ページ)
AI(人工知能)の研究開発を進めるに当たり、研究者たちは「脳の機能を理解する」という原点に立ち返っているようだ。研究がより進めば、AIの性能もそれだけ向上するのではないかと期待されている。
海馬は脳のインテグレーター
Alvelda氏は、「海馬は、“脳のインテグレーター”としての役割を担い、サブAIを集めて統合型のメタAIを作るのではないかとみられる。Cortical.aiで、このようなシステムを構築したいと考えている」と述べる。
Cortical.aiは、まだ本社も設立されていないほどの新しい企業であるが、小脳を模倣した予測システムの構築を目指しているという。
「過去数年間の取り組みの中で、小脳は、脳の他の部分全体と比べて神経細胞の数がはるかに多いため、モーター制御を微調整するためだけに使われているのではないということが明らかになった。小脳は、脳全体につながっていて、例えばボールをキャッチする方法を理解するなど、認知過程の未来の状態を予想する働きをサポートしているのではないかと確信している」(Alvelda氏)
Cortical.aiの取り組みは、Alvelda氏が始動をサポートした、米国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Project Agency)のプログラム「NESD(Neural Engineering System Design)」に大きく依存している。NESDは、今後3年間で、神経細胞とエレクトロニクスとを接続することが可能な、埋め込み型インタフェースの開発を目指しているという。
NESDは、オバマ前大統領が提唱した脳研究プロジェクト「BRAIN Initiative(ブレインイニシアチブ)」の一環として、既存の手法で実現可能な高品質の視覚およびオーディオデータを脳に提供することにより、視力と聴力を回復させることを目標とする。
Alvelda氏は、「このようなインタフェースを実現するための技術は全てそろっているのに、さまざまな企業や大学がそれぞれ個別に保有しているという状況にある」と指摘する。同氏は、NESDの始動にあたり、80カ所の研究所を訪問し、数多くのワークショップを開催したという。
こうした取り組みにより、薄型CMOS電気プローブアレイや、フォトニクス、生体適合性パッケージング、基礎神経科学など、幅広い分野の技術が使われることになる。
ニューロエンジニアリング業界に種をまく
Alvelda氏は、「われわれは現在、途方もない速さで進展しているニューロエンジニアリング業界に、種をまいているところだ。数百を超える機関から、数百人の参加者を集め、新たな産業の発展を促進してきた」と述べる。Elon Musk氏の他、Googleなどの企業で構成されるグループから、7億米ドルの資金提供を受けているという。
Alvelda氏は、「Cortical.aiは、こうした取り組みを基に、『健康な体の限界からも心を開放する』という目標を掲げ、“感覚に直接書き込む”ことが可能な、VR(仮想現実)の一種のようなものを実現したいと考えている」と述べている。
こうした性能は、大きな影響力を及ぼすことになる。Alvelda氏は、「人々の考えや感情、感覚などを把握することが可能になると、通信事業者やメディアはどのような存在になるのだろうか」と問いかける。同氏は、スマートフォン向け放送サービスを手掛けるMobiTVを設立している。
Cortical.aiの展望は、非常に発展的だ。倫理と信頼の基礎となる共感を“デジタル化”したものを提供するという方法により、さまざまなAIシステムを結び付ける可能性を見いだしている。Alvelda氏は、「これが実現すれば、AIは非常に強い力を発揮できるようになるだろう」と述べる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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