VR/ARで統一プラットフォームを、市場加速に期待:標準化を進めるクロノス(2/2 ページ)
グラフィックスなど向けにオープンな業界標準API(Application Programming Interface)の仕様策定を行うKhronos Group(クロノス・グループ)は、VR(仮想現実)およびAR(拡張現実)向けに、クロスベンダーのプラットフォームを構築しようとしている。独自のゲームエンジンやデバイスドライバーが乱立するVR/AR市場の障壁を取り除き、成長を加速することが狙いだ。
クロスベンダーのVR/AR向けAPI
OpenXRは、「OpenXR Application Interface」と「OpenXR Device Layer」の2つから成り、両方でクロスベンダーのAPIを提供する。OpenXR Application InterfaceのAPIは、ゲームエンジン間の互換性を実現し、OpenXR Device LayerのAPIは、異なるメーカーのVR端末に対応できるようにするものだ。OpenXR Device LayerのAPIを使ってデバイスドライバーを記述すれば、どのVR端末にも実装できるようになる。
図版の右側はOpenXRのイメージ。「OpenXR Application Interface」と「OpenXR Device Layer」という2つの部分で、クロスベンダーのAPIを用意することで、現状(図版左側)のような分断がなくなる 出典:クロノス(クリックで拡大)
Trevett氏は、OpenXR Device Layerの策定の方が、難しくなるだろうと考えている。「OpenXR Device LayerのAPIは、デスクトップPCとモバイル端末の両方にインストールできるデバイスドライバーが必要になるからだ。例えば『Windows』とAndroidのような、まったく異なるOSの両方に対応できるようにするのは、極めて難しい。その課題をどう解決するのか、ワーキンググループのメンバーに期待している。OpenXRのワーキンググループには、GoogleやUnity、Epic Games、Oculus、Samsung、ValveといったVR業界をけん引するメンバーがおり、最適なメンバーで構成されていると自負している」(同氏)
Trevett氏は、VR業界の関連企業は、OpenXRのようなクロスベンダーのプラットフォームの必要性を強く感じていると述べる。OpenXRのワーキンググループが発足したのは2016年12月だが、実はそのころ、クロノスは「クロスベンダーのプラットフォームの標準仕様策定に取り掛かるのは、時期尚早ではないのか」と、疑問に思っていたという。VR市場の動きが速いので、少し市場が落ち着くのを待った方がいいのではないかと迷っていたのだ。だが、クロノスのミーティングが始まって15分もたたないうちに、全会一致でワーキンググループの発足が決まったという。「OpenXRの仕様策定が完了し、いったん導入が始まれば、普及のスピードはかなり速いのではないか」(Trevett氏)
日本企業への懸念も
Trevett氏は、日本をはじめ、アジアの企業は、クロノスの中でも重要な存在だと語る。同氏によれば、現在、クロノスの会員の約30%はアジアの企業で、そのうち約半数は日系企業だという。だが、これらの日系企業には、会費だけを納めて、活動自体にはあまり積極的に関わっていない企業も多いのが実情だとTrevett氏は述べる。「言葉の壁など、複数の原因が考えられる。クロノスの定期ミーティングはどうしても欧米諸国の時間帯に合わせて設定されるため、日系企業にとっては時差も障壁になるだろう」(Trevett氏)。さらに、クロノスでの活動が正式な業務として認められない場合もあり、そうなると、通常の業務に加えてクロノスの活動に参加したり、ミーティングに出席するために出張したりといったことは、難しくなってしまう。「こうした障壁を取り除き、少しでもクロノスの活動に参加しやすくよう、われわれも、より努力しなくてはならない」とTrevett氏は強調した。
加えて、例えばワーキンググループへの参加を呼び掛ける際、多くの日本企業が示す懸念の1つが、自社の競合がそのワーキンググループに含まれていることだという。Trevett氏は、「なぜ、競合とともに取り組む必要があるのか、という意見をよくいただく」と述べ、そうした心情に理解を示しつつ、懸念も語る。「全ての技術について標準仕様を策定する必要は、もちろんない。ただ、標準に対応していなければ、後れを取ってしまうケースがあるのも事実だ。特に、VRやARのように、動きの速い新興市場では、関連する多くのメーカーが協力して標準仕様や標準プラットフォームを構築することが、各社にとって、ビジネスへとつなげる近道になる場合も多い。それが、市場全体の活性化と成長にもつながる」(Trevett氏)
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