安価なバッテリーの落とし穴、設計上の問題を探る:山手線での発火事故(2/2 ページ)
2017年9月にJR山手線で発生した、リュックサックの発火事故は、中に入っていたモバイルバッテリーが原因だと見られています。バッテリー発火の原因を探ると、設計者として注意すべきことが見えてきます。
内部電池に問題か
ほとんどのモバイルバッテリーは、使用温度範囲は0〜40℃となっていますが、温度に対する保護回路がない場合には、内部電池が異常な状態になっても給電が続きます。ユーザーが、このような異常に気付けないとしても不思議ではありません。
2017年9月11日に発生した事故では、内部電池が放電し、携帯電話機に給電している状態なので、図1における給電部、内部電池に問題があった可能性が大きかったと考えられます。
安価な製品の場合、内部電池そのものの信頼性や、寿命の問題もあります。繰り返し使う中で、内部電池に既に問題が起きていた可能性も十分考えられます。適切な保護回路が実装されていれば、「充電不可」という故障状態となり、事故が発生する前に使用を中止できる可能性が高かったのです。
今回の事故原因の推測をまとめると、1)充電の保護回路が機能しなかった、2)内部電池の品質が悪い、3)繰り返し使う中で既に問題が発生していた、など、複合的な原因によって発生した可能性が高いと考えられます。さらに、副次的な原因として、内部電池を衝撃から守る構造がなかったので、落下などの事故の影響が残っていた可能性もあります。
モバイルバッテリーは大きなエネルギーを持っているので、事故の場合には、使用者のやけど、けが、火災の発生など命にかかわる危険があります。
製品設計における必須要素
製品設計においては、図1に示したような、安全のためのフィードバックは必須であるといえるでしょう。温度上昇や電池の異常が想定される場合には、警告音や表示による注意喚起が望ましいのですが、形状や価格面で対応が難しい場合には、充電や給電を停止する安全対策が必要です。今回の事故製品では、このような対策がなかった可能性があります。
このような事故を防ぐ手段の一例として、携帯電話機に関連した業界団体「MCPC(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)」の規定による「モバイル充電安全認証」を行う方法があります。この認証試験は、携帯電話用のUSBインタフェースを用いた充電器、充電ケーブルを対象としたもので、モバイルバッテリーも認証対象です。
この試験の中では、外気の循環ができない環境での安定した充電を確認する試験も行われています。これは、寝室で携帯端末を充電している時に充電器が毛布などでくるまれた状態を想定しており、リュックの中に入れられたモバイルバッテリーにも近い状態です。この認証試験は、充電ケーブルの試験、充電器の充電特性、USB充電規格への適合性など、携帯電話機用の充電器、充電ケーブルの安全性に着目した試験を中心に行われます。
こうした安全性に関する試験は、今回のような事故を防ぐためにも重要な役割を果たすでしょう。試験に適合した製品には、図2に示すようなMCPCのロゴを使用できるので、一般ユーザーも製品の安全性を確認できる仕組みになっています。
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