米大学が低コストのパワーSiC「PRESiCE」を発表:TIの協力を得て
2017年9月、米大学がTexas Instruments(TI)の協力を得て、SiC(炭化ケイ素)を用いたパワーデバイスを低コストで製造できる独自技術を開発したと発表した。
Siパワーデバイスの1.5倍のコストで製造可能
シリコンカーバイド(SiC/炭化ケイ素)は、ワイドバンドギャップの半導体で、シリコン(Si/ケイ素)に代わる高性能パワートランジスタの材料になる。ダイオードと組み合わせれば、発熱が小さく、高い動作周波数のパワーデバイスを実現できる。SiCトランジスタは、Siパワートランジスタよりも発熱量が30%少なく、Siトランジスタの約5倍の性能を実現するという。
North Carolina State University(NCSU:ノースカロライナ州立大学)のJay Baliga教授は、「各社が独自開発するSiCプロセスは高価格で、市場参入への障壁が高い」と指摘する。Baliga氏が率いる研究チームは、低コストでライセンス供与の可能なプロセス技術でこうした障壁を下げることを目指して、SiC電子デバイスの製造向けプロセス「PRESiCE(Process Engineered for Manufacturing SiC Electronic-devices)」を考案し、Texas Instruments(TI)のX-Fabの協力の下、同技術を実装した。同研究チームは2017年9月22日、2017年9月17〜22日に米国Washington DCで開催されたSiCデバイスの国際会議「ICSCRM(International Conference on Silicon Carbide and Related Materials 2017」で、同プロセスに関する論文を発表した。
Baliga氏は、「PRESiCEは、SiCプロセスを独自開発する代わりに低コストで適用できるだけでなく、旧式の独自プロセスよりも高効率である」と主張している。同氏は、「ライセンス費用を低く設定することで、より多くの企業が競争に参加でき、SiCデバイスの製造が増加すると期待している。その結果、SiCデバイスの価格が下がり、Siデバイスの1.5倍の価格で製造できるようになると予想している」と述べている。
SiCパワーデバイスは低発熱で動作できるだけでなく、高い周波数でのスイッチングが可能なため、より小型のコンデンサーやインダクターなど各種受動部品を利用できるようになる。その結果、より小さなスペースにより多くの部品を集積した軽量のパワーエレクトロニクス機器の設計が可能になる。Baliga氏は、「PRESiCEは、高歩留まりで特性を厳密に制御したSiCデバイスの製造を可能にする」と述べている。
1.2kVの電源装置を試作、チップ面積Si比4割減に
同研究チームはPRESiCEの概念を実証するために、TIのX-FabでPRESiCEを適用して、SiCパワーMOSFETとACCUFET(蓄積モードFET)、接合障壁制御ショットキー(JBS)リフレクターで構成する1.2kVの電源装置を製造した。パワーMOSFET内部のJBSフライバックリフレクターでパワーJBSFETを作製することで、Siベースの設計と比べてチップ面積を40%削減し、パッケージ数を半減できたという。
同技術の研究は、米国エネルギー省(DOE:Department of Energy)のPowerAmerica Instituteからの資金提供によって実施されている。Baliga氏が2017年9月22日に発表した論文は、NCSUのK. Han氏、J. Harmon氏、A. Tucker氏、S. Syed氏、ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)のナノスケールサイエンスの研究者であるW. Sung氏との共同執筆である。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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