短時間で3Dカラー撮像できる原子間力顕微鏡:デバイス開発などに応用期待
東京大学など日仏の研究者らは、短い時間で原子の種類や状態をカラー3次元画像化できる原子間力顕微法(AFM:Atomic Force Microscopy)を開発した。
合金や半導体、化合物などの表面観察も容易に
東京大学生産技術研究所マイクロナノ学際研究センター(CIRMM)および、日仏共同ラボLIMMS/CNRS(フランス国立科学研究センター)-IIS国際連携研究センターの教授を務める川勝英樹教授らは2017年9月、短い時間で原子の種類や状態をカラー3次元画像化できる原子間力顕微法(AFM:Atomic Force Microscopy)を開発したと発表した。これまでは、100nm角の範囲だと撮像に数十時間を要することもあったという。開発した技術を用いると、わずか数十秒〜数分で観察することが可能になり、デバイス開発などの広い分野への応用が期待できるという。
原子間力顕微鏡はこれまで、探針を高速に震わせるため、ピエゾ素子を用いて振動を発生させていた。今回は、レーザー光を高速に明減させることで加熱と放熱を繰り返し、熱膨張により振動を発生させる方式を採用した。この方式で、1億Hz以上の機械振動を発生させることが可能なことを確認した。この振動をより精密に高速で測定するため、光熱励振機能を備えたレーザードップラー計も新たに開発した。
開発した技術を組み合わせて、鋭利な探針を数十pm〜数百pmの振幅で、毎秒数百万回振動させ、試料表面における原子間力の変化を検出した。同時に、試料と探針との距離(間隔)を1秒間に数千回変化させ、試料の原子の力が作用する距離も測定した。
探針と試料の関係をモデル化し、計測したデータを結合エネルギー、緩和長などの物理量に変換するための数学的考察も併せて行った。この演算には、当初1点当たり1秒の処理時間を要していたが、アルゴリズムの改良により、1秒で約500点の処理を可能とした。
今回開発した手法を用いると、原子に関する3つの独立した物理量を同時に計測することができる。これらの測定値をRGB(赤、緑、青)に変換してカラー画像とした。3つとも物理量が同じであれば原子は同じ色となる。1つでも物理量が異なると別の色で表示されるため、瞬時に判別することができるという。
今回は、シリコン表面の原子の状態を実際に観察してみた。この結果、原子の結合エネルギーや力の作用する距離、原子が周囲に支持されている剛性の強弱などを可視化することに成功した。
今回の研究は、川勝氏の他、小林大助教、電気通信大学情報理工学研究科の佐々木成朗教授、JSPS博士研究員のPierre Allain氏、Denis Damiron氏、外国人研究生のFlavius Pop氏、東京大学大学院工学系研究科精密工学専攻大学院生の上西康平氏、宮崎雄太氏ら、日仏の研究者らが共同で行った。装置開発は日本で行い、モデル化や数学的解釈、アルゴリズムの高速化などはフランスの研究者と東京大学の大学院生らが共同で取り組んだ。
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