5G向け、C-RAN構成の超多素子アンテナ基地局:NECが開発
NECが、5G(第5世代移動通信)向けに、C-RAN構成の超多素子アンテナ基地局システムを開発した。利用者がどこにいても、安定した高品質の通信を実現することを目指す。
1DU当たりLTEの15倍以上の大容量化を実現可能
NECは2017年10月30日、5G(第5世代移動通信)向けに、集約基地局(Central Unit、以下CU)が複数のリモート局(Distributed Unit、以下DU)を制御するC-RAN(Centralized-Radio Access Network)構成の超多素子アンテナ基地局システムを開発したと発表した。
1台のCUで配下にある複数のDUを同時に制御し、各DUの送受信データ処理やDU間の協調制御を行う。DUは、スマートフォンなどの端末に対してビームを形成するアンテナ部と、受信した上り信号から最適な下りビームをリアルタイムに形成するデジタル信号処理部で構成される。
DUのアンテナ部は、RF回路、デジタル回路の集積化や高密度プリント配線基板を採用し、アンテナ素子と無線処理部を一体化している。これにより、低SHF帯(3GHz〜30GHz帯)の100MHz帯域幅に対応しつつ、実用レベルの小型軽量化を図った。サイズは縦350×横287×高さ52〜83mm、重量約7kgである。
DUはフルデジタル制御による高精度ビームの形成により、ある端末に対して放射エネルギーを集中させ、他の端末には電波干渉を与えないようなビームを形成できる。これにより、同じ周波数資源をより多くの利用者に、同時に割り当てることができるので、周波数利用効率や通信速度の向上、システムの大容量化を実現する。NECが開発したシステムでは、1DU当たりLTEの15倍以上の大容量化が可能だという。
互いのDUからの電波干渉を抑える
一般的に、あるDUのカバーエリアと、隣接する別のDUのカバーエリアの境界付近に位置する端末は、電波干渉によって通信品質が低下してしまう。NECが開発した基地局システムでは、CUによってDU間で協調制御しながらビームを形成するので、互いのDUからの電波干渉による通信品質の低下を防ぐ。さらに、端末の移動に応じて協調制御を行うDUを適切に切り替えることにより、利用者は場所に関係なく安定した品質で通信できるとする。
CU-DU間の伝送容量を従来の30分の1に
現行のLTEで導入されているC-RAN構成のCU-DU間通信は、CPRI規格により所要伝送容量などの条件が規定されている。一方、5Gでは、LTEに比べてアンテナ素子数や帯域幅が増加するので、CU-DU間の伝送容量が増大する。例えば、アンテナ素子数が128個(64送受信機)、帯域幅が100MHzの超多素子アンテナを備えたDUの場合、CPRI規格では約320Gビット/秒(Gbps)の伝送容量が必要になる。これは、LTE基地局(アンテナ素子数2個、40MHz帯域幅)の60倍以上に相当し、こうしたCU-DU間通信を、一般的に利用されている10Gbpsの光ファイバーで行うことは経済的に困難だ。
今回NECが発表したシステムでは、従来のCUが備えていた無線の制御などを行う機能をDUに移すことで、CU-DU間の伝送容量を従来の30分の1と大幅に低減した。これにより、現実的な伝送容量でC-RAN構成の超多素子アンテナ基地局システムを実現したという。
CUを仮想化プラットフォーム上に実装
従来、専用ハードウェア上のソフトウェアにより実現していた基地局の機能を、今回のCUでは汎用サーバを用いた仮想化プラットフォーム上のソフトウェアにより実現した。これにより、配下のDU数や、CUとして収容すべきトラフィックなどに応じて、演算および処理リソース割り当てを変更できる。さらに、仮想化プラットフォームを追加することで、DU数や収容トラフィックの拡張、新たな機能追加にも対応可能だという。
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