デジタル・トランスポーテーション 〜 変わりゆく自動車業界の構造:IHSアナリスト「未来展望」(6)(2/2 ページ)
自動運転車の実現は、自動車分野だけでなく、輸送分野の構造までも大きく変える可能性がある。ソフトウェアの重要性がより高まり、ビジネスモデルも、スマートフォン業界のそれに近づいていくと予想される。
ソフトの役割がますます重要に
自動運転車に関する市場予測について、当社では、完全自動運転車は2035年に約2000万台の市場を形成し、このうち30%を中国が占めると予測している。携帯電話が登場した時には中国が脅威になることはほとんどなかったが、今回の自動運転では、サービスという観点では日本をしのいでいることは否めない。
この完全な自動運転車両は、約30%をハードウェア、残りの約70%をソフトウェアが構成するようになるとみられている。つまり、将来のクルマは、ハードの進化はもちろん必須だが、セキュリティ性能の継続的な向上を含め、ソフトの更新によって進化していく仕様になっていくということだ。
車載ソフトは複雑化の一途をたどっている。かつては組み込みソフトが主流だったが、現在はソフトのプラットフォーム化が進んでおり、将来的にはソフトがクルマを定義するようになります。AI(人工知能)によってクルマ自身が学ぶようになり、OTA(Over the Air)で常に最新のプラットフォームに更新し、セキュリティ性の高い要素をLSI内に格納するようになるだろう。
クルマも、スマホのようなビジネスモデルに
これは、スマートフォンのビジネスモデルに似ていて、こうしたモデルへの移行は、自動車メーカーにもメリットがある。例えば、継続的に最新プラットフォームに更新できれば、クルマの残価を維持することができる。リース事業者などにとって有用で、消費者にとってもクルマを買い替えやすくなる。ハイエンドEV(電気自動車)メーカーの中には、あえて全てを電子化せず、走る・曲がる・止まるの主要な機能には可能な限り従来のテクノロジー(ローテク)を残し、ソフトのみで性能を改善して寿命を延ばし、残価を高めることを設計思想に取り入れている企業もある。
5Gが欠かせない
ソフトリッチなクルマを実現するには、5G(第5世代移動通信)プラットフォームが必須だ。通信速度に起因する遅延の問題があるため、車車間や路車間通信に5Gは不可欠といえる。だが、現行の4G(LTE)通信環境下でやるべきことは「サービスをどう構築するか」だ。ここの競争で業界地図や構造がどう変化するかによって、5Gが本当に必要な市場や用途がよりはっきり見えてくるだろう。
なお、IHS Markit Technologyは2017年11月30日、「5G & IoT」をテーマにしたセミナーを東京コンファレンスセンター・品川(東京都港区)で開催する予定だ。
筆者プロフィール
棚町 悟郎(たなまち・ごろう)/IHS Markit Technology部門 アソシエイト・ディレクター
1993年から13年間にわたり、旧モトローラ 半導体部門と自動車部門にて民生・自動車エレクトロニクス業界の顧客向けのLSI商品設計とその応用技術開発に従事。
2006年から7年間は旧Freescale Semiconductor、Continental、Vodafoneにてインフォティンメント、テレマティクス/M2M(Machine to Machine)およびADAS(先進運転支援システム)の事業戦略企画および商品戦略企画に従事。2013年から現職。
【IHS Markit Technology】
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