未利用熱を電力に変換、多孔質熱電材料を開発:エンジンの排熱などを有効活用
NEDOプロジェクトにおいて白山らは、多孔質p型マグネシウムシリサイド(Mg-Si-Sn)系熱電材料の創製に成功した。自動車エンジンの排熱や産業分野の未使用エネルギーを電力に変換して有効利用する熱電変換モジュールの実用化を目指す。
2020年度末めどに熱電変換モジュールを実用化へ
白山は2017年11月、多孔質p型マグネシウムシリサイド(Mg-Si-Sn)系熱電材料の創製に成功したと発表した。自動車エンジンの排熱や産業分野の未使用エネルギーを電力に変換して有効利用できる熱電変換モジュールの実現を目指す。
今回の研究は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2015年度より実施している「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」プロジェクトの一環として取り組んでいるもので、石川県工業試験場や北陸先端科学技術大学院大学との共同研究による成果である。
今回の共同研究では、白山が熱電材料の性能向上を、石川県工業試験場が構造解析を、北陸先端科学技術大学院大学が詳細な電子構造計算に基づく物性予測を、それぞれ担当した。研究では、マグネシウム(Mg)-シリコン(Si)-スズ(Sn)を出発原料とした基材を、造孔材(PVA:ポリビニールアルコール)により多孔質化処理し、無次元性能指数ZTが1.0(450℃)の多孔質n型熱電材料を開発した。
この手法をp型熱電材料の開発に応用し、電子構造計算に基づく物性予測を行うことで、多孔質p型Mg-Si-Sn系熱電材料の創製に成功した。開発した材料は、孔を含まない熱電材料と同等の導電率を持ちながら低い熱伝導率を達成している。また、「真空・不活性ガス置換焼結」という一般的な生産方式で行うため、工業化が容易だという。
開発した多孔質材料における出力因子の温度依存性は、実用温度の300℃付近で、多孔質n型熱電材料の場合は2.0mW/K2m以上、多孔質p型熱電材料は1.14mW/K2mとなった。従来の多孔質p型では多孔質n型に比べ約2割の出力因子にとどまっていたが、新開発の多孔質p型熱電材料は6割以上の性能を達成していることが分かった。
白山は、2020年度末を目標として自動車や産業分野向けに、安価で耐久性に優れた熱電変換モジュールを実用化していく考えである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 検出精度80%以上、コンクリートひび割れ点検AI
実用に足る性能を発揮するコンクリートひび割れ点検AI(人工知能)システムが誕生した。同システムは教師あり学習とディープラーニングを併用しており、表面に汚れや傷がある状態でもコンクリートのひび割れを80%以上の精度で検出できる。システムが完成した暁には、ひび割れ点検にかかる時間が従来の10分の1となる見込みだ。 - NEDOら、ガラスやシリコーンの基本構造を解明
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)らの研究グループは、ガラスやシリコーンの基本構造を解明することに成功した。 - SiC向け銀ナノペースト、低加圧接合が可能に
新エネルギー・産業技術総合研究所(NEDO)は、「nano tech 2017」で、SiCパワーモジュール向けに、銀ナノペーストを用いた接合材を展示した。NEDOのプロジェクトとしてDOWAエレクトロニクスが開発したもの。 - 自動走行システム、公道で大規模実証実験を開始
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、自動車専用道路や一般道路などの公道で、自動走行システムの大規模実証実験を推進していく。 - 二次電池のエネルギー密度に迫る単層CNTキャパシター
スペースリンクが「nano tech 2017」に展示した単層カーボンナノチューブ(CNT)キャパシターは、エネルギー密度がニッケル水素電池や鉛蓄電池と同等(電極だけで比較)まで向上している。今後は、エネルギー密度を2〜3倍高め、リチウムイオン二次電池の置き換えができるような蓄電素子を目指して、開発を進める予定だ。 - 圧力と温度を同時に多点検出するシートセンサー
新エネルギー・産業技術総合開発機構と次世代プリンテッドエレクトロニクス技術研究組合は、印刷技術を用いて圧力と温度を同時に多点検出できるフレキシブルシート型センサーを開発した。他のセンサーと組み合わせることができれば、将来は人間の皮膚感覚を備えたロボットスキンを実現することも可能となる。