NEDOら、ガラスやシリコーンの基本構造を解明:200年にわたる謎に終止符
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)らの研究グループは、ガラスやシリコーンの基本構造を解明することに成功した。
高機能で高性能なケイ素材料の開発に期待
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンターおよび、総合科学研究機構の研究グループは2017年7月、ガラスやシリコーンの基本構造を解明することに成功したと発表した。基本単位から構造を制御したシリコーンの合成が可能となることで、高い機能と性能を備えた新しいケイ素材料の開発が期待される。
シリコーンや機能性シロキサン化合物などの有機ケイ素材料は、炭素系のポリマー材料に比べて耐熱性や耐寒性、耐光性、電気絶縁性、離型性、撥水性などに優れている。その特長を生かし、LED製品や太陽電池モジュールから、エコタイヤ、化粧品、キッチン用品など、その応用製品は多岐にわたる。
最近は、発熱や高強度の光に対する耐性を改善し、機能や性能をさらに高めることができる有機ケイ素材料の要求が高まってきた。このために、ガラスやシリカ(SiO2)、ゼオライトといった無機ケイ素化合物、シリコーンなど有機ケイ素化合物の基本単位となるオルトケイ酸(Si(OH)4)の分子構造を解明することや、安定的な合成と単離に関する研究が進められている。
ところが、オルトケイ酸はアルコキシシラン(Si(OR)4)や塩化ケイ素(SiCl4)を加水分解する際に短時間発生する「真の前駆体」である。このため、速やかに重縮合しシリカとなることから、詳細な分子構造はこれまで解明されていなかったという。
研究グループは今回、有機ケイ素材料の物性が、骨格を形成しているシロキサン結合(Si-O-Si結合)の構造に大きく依存することに着目。シロキサン結合を自在に形成することが可能な技術を開発した。
これまでシロキサン結合の形成法は、加水分解法が一般的であった。ところがこの方法だと、オルトケイ酸が不安定となり単離をすることができない。その理由として、加水分解行程における水が大きく影響していると想定。水を用いなくてもオルトケイ酸を合成できる反応の開発を検討した。
そこで研究グループが開発したのは、パラジウムカーボン触媒(Pd/C)を用い、アミド溶媒中において4つベンジルオキシ基を有するケイ素化合物を水素化分解する手法である。水を用いないことで、オルトケイ酸を96%の収率で合成することに成功した。しかも極めて安定的に存在することが分かった。
単結晶を得るために、結晶化を促進させるテトラブチルアンモニウム塩を反応溶液に加えた。得られた単結晶をX線結晶構造解析および中性子結晶構造解析し、その構造を明らかにした。X線結晶構造解析の結果から、オルトケイ酸は正四面体構造であることが分かった。Si-Oの平均結合長は0.16222nm、O-Si-Oの平均結合角は109.76度であった。中性子結晶構造解析は、J-PARCセンターと総合科学研究機構が担当した。この結果から、O-Hの平均結合長は0.0948nmであることが分かった。
研究グループは、オルトケイ酸のオリゴマー(2量体、環状3量体、環状4量体)についても、同様の反応を用いて合成に成功。X線結晶構造解析によって、これらの構造が明らかとなった。
今回の研究成果により、オルトケイ酸とそのオリゴマーを安定的に合成できるようになった。これらをビルディングブロックとして用いたシリコーン材料の開発や、革新的なシリカ製造プロセスの開発に弾みがつくとみられている。
研究グループは今後、オルトケイ酸とオリゴマーの大量合成に向けた研究を行う予定である。また、構造を制御したシロキサン化合物の製造プロセス開発についても検討している。
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