低周波数帯を使う5G、最後の砦は「波形をいじる」:帯域幅の“無駄使い”をなくす(3/3 ページ)
5G(第5世代移動通信)向けの技術では、ミリ波の研究成果が目立つが、低周波数帯もLTEに引き続き重要になる。ただ、特に6GHz帯以下は逼迫(ひっぱく)していて、とにかく周波数がない。京都大学では、低周波数帯において周波数の利用効率を上げる新しい変調方式を開発している。
“波形そのもの”に手を加える
前述した通り、5Gではミリ波の活用についての議論が目立つが、原田氏は「高周波を使う通信の方式には、問題はほとんどないのではないか」との見解を述べる。「高周波帯では周波数がたっぷりある。通信方式よりも、課題は通信エリアをどう作っていくかにあるとみている。つまり、Massive MIMOによるビームフォーミングなど、伝送の仕方だ。高周波数帯の電波は遮蔽物に弱い、空気中の水分による減衰が大きいなどの特徴から、伝送が難しい」(原田氏)
だからこそ、「IoT通信も含めた5Gでは、マイクロ波、特に現在のモバイルネットワークで使用しているところ以下の周波数帯との併用が重要になってくる」と原田氏は強調する。
「ただ、低周波数帯では帯域幅を広く取れない。6GHzの周波数帯で、1GHzの帯域幅を確保するのは無理だ。だから現在は、アンテナの数を増やし、“空間を多重化”することで対応している。とはいえアンテナを搭載できるスペースにも限りがある。ユーザーがさらなるスピードを求め、空間の多重化では追い付かなくなると、次に考えられる対策は、電波の波形そのものをいじっていくしかない。その1つの手段がUTW-OFDMだ」(原田氏)
さらに原田氏は、「今から全く新しい通信方式を開発するのは現実的ではない。基地局を総取り換えしなくてはならないからだ。そのため、LTEの信号波形に計算量の少ない処理を加えるだけのUTW-OFDMのように、従来の方式を踏襲しつつ、どこまで周波数利用効率を向上できるかを突き詰めることが重要だ」と続けた。
現在、3GPPで標準化が進んでいる5Gだが、原田氏によれば、低周波数帯での変調方式の議論は止まってしまい、ブロードバンドばかりに集中してしまっているという。だが、膨大な数のモノもつながっていく今、ミリ波だけでなく、低周波数帯における周波数利用効率の向上についても、技術開発を進めていく必要があるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 新しい半導体の流れを作る、IoTと5G
新しい半導体の流れを作るとみられる「IoT&5G」。IHS Markitは中国が取り組む新たな戦略や、IoT(モノのインターネット)と自動車市場をめぐる半導体メーカーの取り組みなどを紹介した。 - 5Gの出発点、知っておきたい「フェーズ1」の基本
5G(第5世代移動通信)は実用化のスケジュールが非常にタイトなため、規格策定の計画が段階的に組まれている。まずは2017年12月に、フェーズ1の策定が完了する予定だ。これを機に、フェーズ1で取り扱われる「5G NSA(Non Stand Alone)」やミリ波について、知っておきたい基本事項を整理してみよう。 - Qualcomm、5Gモデムチップでデータ接続に成功
Qualcommは、同社の5Gモデムチップセット「Snapdragon X50」を使い、5Gデータ接続のデモに成功したと発表した。 - 5Gはミリ波のパラダイムシフトになる
5G(第5世代移動通信)では、ミリ波帯の活用が鍵になる。ミリ波対応チップを開発する米Anokiwaveは、5Gは、ミリ波通信技術が民生機器に適用されるという点で、パラダイムシフトだと語る。 - 5G、土台があれば優れたサービスは生まれてくる
キーサイト・テクノロジーは2016年6月10日、5Gの最新技術動向や5G開発向けの計測器などを紹介する「Keysight 5G AKIBA Summit 2016」を開催した。基調講演ではNTTドコモが登壇し、5G(第5世代移動通信)の技術動向や2020年での一部商用化の予測について語った。 - 「1ドルのセンサーがあれば」 IoT化狙うWalmart
米大手スーパーのWalmart(ウォルマート)が、1米ドルを切るセンサーの実現を熱望している。スーパーマーケットの業界もIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)に強い関心を寄せているのだ。