日本企業にとって「中国は脅威ではなくチャンス」:SEMICON Japan 2017基調講演(1)
SEMI Chinaのプレジデントを務めるLung Chu氏は、2017年12月13〜15日に開催された「SEMICON Japan 2017」の基調講演で、中国の半導体市場について講演。中国は、まだ「脅威」ではなく、むしろ大きなビジネスチャンスだと強調した。
半導体の需要と供給に大きなギャップがある中国
「半導体業界にとって、中国はまだ脅威ではない。むしろ、大きなチャンスが眠っている」――。「SEMICON Japan 2017」(2017年12月13〜15日、東京ビッグサイト)で12月13日に行われた基調講演「SEMIマーケットフォーラム」で、SEMI Chinaのプレジデントを務めるLung Chu氏は、このように強調した。
SEMIマーケットフォーラムでは、「中国半導体産業の光と影」というテーマの下、Chu氏の他、IHSマークイット テクノロジー調査部 調査ディレクターの南川明氏など計4人が登壇、講演を行った。
Chu氏は、「中国は半導体の最大の消費国」と語る。中国における半導体消費のシェアは、2012年以降、世界全体の50%以上を占めている。それにもかかわらず、その多くを輸入に頼っており、貿易赤字の主な要因となっていることに言及。ローカルでの供給は、中国で必要とされる半導体全体の13%しか満たしておらず、需要と供給に多大なギャップがあると指摘した。
そうした背景もあり、中国政府は半導体IC開発のガイドラインを打ち立て、「設計」「製造」「パッケージ/テスト」「装置/材料」の4つの分野で積極的な目標を定めている。政府は今後10年間で1600億米ドルを超える資金を投入する計画だ。中国のファブレスメーカーとしては、HiSiliconやSpreadtrum Communicationsが台頭していて、ファブレス半導体メーカーの世界トップ10にランクインしている。新しいファブレスメーカーの数も2015年から2016年で倍増した。Chu氏によれば、こうした新しいファブレスメーカーは、従業員数が10〜20人と小規模なところも特徴的だという。
大規模な設備投資も計画されている。中国における2018年の製造装置への投資額は130億〜140億米ドルになる予定だ。けん引するのはファウンドリーとメモリで、IntelやSamsung Electronics、TSMCなど中国国外の企業が、中国内に製造ラインを建設していることも大きい。TSMCは南京に工場を建設する計画を急ピッチで進め、2018年6月には稼働を開始したいと発表した。同工場では16nmプロセスによる製造が導入される予定だ。Samsungは今後3年間で70億米ドルを中国に保有する製造施設に投入する。NAND型フラッシュメモリの生産能力を強化するためだ。
中国における製造工場への投資額(2017年以降は予測値)。海外企業の投資が目立つ。2017年12月12日にSEMIが東京都内で開催した記者会見の資料(関連記事:2017年の半導体製造装置市場、559億米ドルで過去最高)。 出典:SEMI(クリックで拡大)
中国国外の企業からの投資が目立つ一方で、中国の半導体メーカーによる投資は、まだ少ない。プロセス技術でも後れを取っていて、「SMIC(Semiconductor Manufacturing International Corporation)のプロセスは、最先端のプロセスに比べると少なくとも2〜3世代は遅れている」(Chu氏)という。Chu氏は、こうした状況を「製造装置のリーディングカンパニーを持つ日本にとってチャンス」と述べる。
中国は、まだ“脅威”ではない
同氏はさらに、これ以外でも「中国には独自のチャンスがある」と強調する。同氏は「高速鉄道網を例に取ると、日本の新幹線網は約2800kmだが、中国はおよそ3万kmに及ぶ。スマートグリッドも中国全土で導入しようとしているし、国をあげて電気自動車(EV)の普及にも注力している」と述べ、あらゆる分野において、使われる半導体の量の規模が桁違いに大きいことを示した。「中国の半導体技術の競争力は大きく改善しているが、最先端の技術とはまだ差がある。そうした意味でも、中国は、まだ“脅威”ではなく、むしろ“チャンス”といっていい」(同氏)。Chu氏は「日本と中国は、Win-Winの関係を築けると考えている」と付け加え、SEMIはそのために尽力すると結んだ。
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