溶融はんだを注入してバンプ形成、TSVに応用も:IBMが開発した3次元IC向け技術
日本アイ・ビー・エム(日本IBM)は「SEMICON Japan 2017」で、溶融はんだをマスクの開口部に直接注入する、はんだバンプ形成技術「IMS(Injection Modled Solder)」の概要を展示した。さらに、IMSをTSV(シリコン貫通電極)に応用する技術も展示。銅めっきを使用するよりも、低コストで短時間にTSVを形成できるとした。
溶融はんだを直接注入する、はんだバンプ形成技術
JSRと日本アイ・ビー・エム(日本IBM)、千住金属工業は「SEMICON Japan 2017」(2017年12月13〜15日、東京ビッグサイト)で、米IBMが開発している3次元IC向けのはんだバンプ形成技術「IMS(Injection Modled Solder:溶融はんだインジェクション法)」の概要と、同技術を導入した試作装置を展示した。
IMSは、ウエハー上にレジストで形成したマスクの開口部に、溶融はんだを専用のヘッドで押し出しながら直接注入する技術。これにより、より微細なはんだバンプを形成できる。日本IBMの説明担当者は「めっきを使わないのがポイントになる。めっきは“生もの”なので品質管理が難しい。その点、溶融はんだであれば品質管理が、よりシンプルになるのでコスト削減にも貢献する」と説明する。SEMICON Japan 2017では、直径30μmのバンプを60μmピッチで形成した300mmウエハーを展示していた。日本IBMによれば、40μmピッチでも試作品ができていて、今後は20μmピッチ、10μmピッチでも試作を目指すという。
IMSで使用するレジスト材料は、JSRが開発している。「IMSで使用するには耐熱性が必要になるので、専用に開発している」(日本IBM)
千住金属工業は、IBMと共同でIMSの装置化に成功していて、2014年に開催した「第15回 半導体パッケージング技術展」にて、その実機を初めて展示した。SEMICON Japan 2017で展示した装置の主なアップデートとしては、「溶融はんだをヘッドで押し出す際のスキャンの動作が、これまでは一方向だったが、今回展示した装置では、円を描くような動作でスキャンしている。これによって、いろいろなサイズの基板に対応しやすくなった」(日本IBM)とする。試作装置は、評価のために一部の顧客に試用してもらっているが、実用化という意味での実績は、まだないという。
IBMは、IMSをTSV(シリコン貫通電極)に応用する技術も展示した。一般的にTSVには、銅めっきが使われている。チップに穴を開け、穴の周りをコーティングして銅めっきを注入し、チップを積層していて、工程数が多い。これにIMSを使うと、「先にチップを積層しておき、穴を開けて、溶融はんだを流し込む」という作業で完了するという。日本IBMは、「はんだは銅よりも応力が低いので、銅めっきを使うよりも、3次元積層チップが壊れにくくなるという利点がある」と話す。
同技術は、原理的にはさまざまなチップに応用できるが、プロセッサやメモリに適用するには、まだ十分に微細化できていないという。そのため、まずは「あまり微細化が求められないIoT(モノのインターネット)デバイスなどに適用できるのではないか」(日本IBM)
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