ルネサス MCU/MPUのAI処理性能を今後3年で1000倍に:「18カ月ごとに10倍にする」
ルネサス エレクトロニクスはMPU/MCU製品のAI(人工知能)処理性能を今後3年ほどで1000倍に高めるとの方針を明らかにした。
DRPを用いて、AI処理性能強化版MPU/MCUを投入へ
ルネサス エレクトロニクスは、産業機器など向けMPU/MCU製品のAI(人工知能)処理性能を今後3年ほどで1000倍に高める。2018年1月30日に都内で開催したメディア向け説明会で、執行役員常務の横田善和氏が明らかにした。
ルネサスは、MCUやMPUにAI機能を実装する形で、産業機器やホーム/ビルオートメーション機器などにAI機能を組み込む「e-AI」を提唱。2017年からAIフレームワークである「Caffe」や「TensorFlow」での学習結果(推論モデル)を、ルネサス製の「RZファミリ」「RXファミリ」といったMPU/MCU製品に実装するためのツールなどを提供している。ただ、これまではAIを実装する対象のMCU/MPUは既存の製品だった。
ルネサスが「e-AI」でターゲットにするのは、AIの学習結果に基づき処理する「推論実行」の領域。推論実行をネットワーク末端のエンドポイントにおいてMPU/MCUを使って行うことを提唱する。今後、エンドポイントでの推論実行性能を高めるため、新たなMPU/MCUを開発する。「クラウドで学習を行う高性能なGPUやCPUとは競合にならない」(横田氏) (クリックで拡大) 出典:ルネサス エレクトロニクス
1月30日の説明会で横田氏が明らかにしたのは、AI処理性能を高めた新たなMPU/MCUの製品化スケジュール。まず、2018年夏に既存のMPU/MCUよりも10倍程度、AI処理性能を高めたMPU/MCUを製品化。「その18カ月後(=2019〜2020年冬)にさらに10倍性能を高めた製品を、さらにその18カ月後(2021年夏)にも、性能を10倍高めた製品を投入する。これから3年で、(MPU/MCUの)AI処理性能を現状の1000倍にする」と明言した。
AI処理性能の強化は、MPU/MCPに「DRP」(Dynamically Reconfigurable Processor)を搭載することで実現する。DRPは、1クロックサイクルごとにハードウェア構成を変更できるプログラマブルハードウェア。「AIの複雑な処理に向く」(横田氏)とする。また、規模の大きなニューラルネットワークも、時分割でハードウェアを構成、実行することで、より小さなハードウェア規模で処理できる利点があり、コストや消費電力を低減できる。「e-AIがターゲットにするエンドポイント/エッジに位置する機器では熱の問題がある。そのため、消費電力を抑えながらAI処理を実行する必要があり、DRPにより可能になる」(横田氏)とした。なお、ルネサスは「10年以上前からカスタムデバイスにDRPを適用し量産してきた実績がある」としている。
2018年夏に投入する第1世代のAI処理機能強化版MPU/MCUでは、既存のMPU/MCUをベースにしながらDRPを追加することで10倍のAI処理性能を実現。2019〜2020年冬に投入する第2世代品は「少し製造プロセスの微細化を進めつつも、基本的にはDRPの規模を拡大させることで、(第1世代より)10倍の性能向上を目指す」(横田氏)。第3世代については「製造プロセスの微細化によるクロックの高速化を行う。そしてDRPの機能強化なども併せて、さらに10倍の性能向上を図る」(同)との考え。
横田氏は「現在のe-AIは波形データに対する推論実行が行える程度だが、10倍になることで画像が扱えるだろう。1000倍になれば、1000フレーム/秒というような高速で画像に対し推論実行ができ、エキスパートの人間でしか見えない検査などをe-AIで実行できるようになる。また処理性能が1000倍になれば、ローエンドのクラウドのAI処理性能に匹敵する。エンドポイントで、推論実行だけでなく、強化学習も行えるようになる。性能を高めることで応用範囲は拡大する」とした。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ルネサスがMaximと買収交渉との報道、ルネサスは否定
ルネサス エレクトロニクスが米Maxim Integrated Productsを買収する交渉に入ったと、米メディアが報じた。ルネサスは「そのような事実はない」と即座に否定している。 - 量産車向けは絶対に明け渡さない――ルネサス呉CEO
ルネサス エレクトロニクス社長兼CEOの呉文精氏は2017年12月25日、インタビューに応じ、投資方針や自動車向け事業でのルネサスの事業姿勢、2018年の経営方針などについて語った。 - 応用例で見る、ルネサスの組み込みAI
AI(人工知能)機能を持つ組み込み機器の登場が、スマートな社会を身近なものとする。ルネサス エレクトロニクスはセキュアで自律的に動作する組み込み機器を開発するための「e-AIソリューション」を提案する。 - ルネサス、古い装置でもAIが使えるソリューション
ルネサス エレクトロニクスは2017年11月27日、製造装置に、異常検知機能や予防保全機能など、AI(人工知能)を活用したインテリジェント機能を容易に付加できる「AIユニットソリューション」を開発し、販売を開始したと発表した。 - 「われわれのAIは現実世界のモノを動かすための技術」、ルネサス
ルネサス エレクトロニクスが、プライベートイベント「Renesas DevCon Japan 2017」を2年半ぶりに開催した。社長の呉文精氏は、エンドポイントにAI(人工知能)を組み込む「e-AI」に注力するという強いメッセージを放った。 - ルネサス、2020年にTSMCで28nmマイコンを量産へ
ルネサス エレクトロニクスは2016年9月、28nmプロセスを用いたフラッシュ内蔵マイコンを2017年にサンプル出荷、2020年から量産すると発表した。