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車載半導体市場の現状と今後のゆくえ大山聡の業界スコープ(2)(2/2 ページ)

車載半導体市場の現状を踏まえながら、今後、車載半導体市場がどのように変わろうとしているのかについて展望していく。

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今後注目される機能

 しかし、車載半導体分野が注目を集めているのは、ADAS(Advanced Driver Assistance System、先進運転支援システム)および自動運転、V2X(通信機能)、EV化といった新しい機能や技術についてであり、Intel、NVIDIA、Qualcommなどがこれらの分野に対して独自のソリューションを提供しようとしている。3社とも既存の車載制御機能に対しては全く無関心、と言い切って差し支えないだろう。

 現状の車載半導体市場は制御系が約7割、情報系が約3割(ADASを含む)、という比率になっている。だが、今後は情報系の比率がどんどん大きくなり、いずれは制御系を上回るようになる可能性が高い。制御系も重要なのはもちろんだが、「新車はスマホと連動しないと売れない」というニーズの現状を考えると、「走る」「曲がる」「止まる」の付加価値を主張し続けることは至難の業だろう。

Intel

 2017年3⽉にADAS分野で先⾏するMobileyeを153億⽶ドルで買収したことで、Intelの本気度が垣間見えた。⾃動運転開発プラットフォーム「Intel GO」を⾃動⾞メーカー向けに提供しており、これを活⽤してBMWとは2021年までに⾃動運転の実現を⽬指す計画もある。「完全⾃動運転を実現するためには、1⽇あたり4Tバイトのデータを処理できるコンピューティングパワーが必要。我々のソリューションが最も有効だ」と主張する同社のコメントにも説得力がある。

 ただし、懸念事項も存在する。Mobileyeの情報開示が非常に閉鎖的でブラックボックス化にこだわっており、警戒する自動車メーカーが多いこと、手軽なADASソリューションとしては魅力的だが自動運転の実現はNVIDIAに後れをとっていることなど、買収したMobileyeに対する評価は千差万別だ。

NVIDIA


画像はイメージです。

 GPUをサーバ向けに拡販しながら、M&Aに頼ることなく、3年間で時価総額を10倍に引き上げた実績は賞賛に値する。自動運転への取り組みも非常に積極的で、Audi、トヨタなどの自動車メーカーとの提携を進めており、自動車業界でも最も注目されている半導体メーカーの1社と言えるだろう。他社に先駆けてAI、ディープラーニングなどに取り組んできた戦略が功を奏し、今や「時代の寵児(ちょうじ)」と呼ばれるにふさわしい存在でもある。

 しかし、この寵児にも課題は存在する。まずは無線通信技術。同社のSoC「Tegra」は、かつてQualcommのSoC「Snapdragon」の対抗⾺としてスマホ市場でも注⽬を集めた。ところが、2012年に発熱問題を起こして訴訟にまで発展し、モデムの⾃社開発を断念した経緯がある。⾃動運転に積極的な同社がV2Xに消極的なのは、このことが影響しているだろう。

 また同社は2017年末、同社製の廉価版GPUをサーバに採用することを一方的に禁止し、顧客から非難を浴びている。部品の安定供給に神経をとがらせる自動車業界が、同社のこの措置をどのように評価するか、気に留めておく必要があるだろう。

Qualcomm

 2016年10⽉、QualcommはNXP Semiconductorsを470億⽶ドルで買収すると発表した。⾞載や産業機器分野で豊富な実績を持つNXPを傘下に収めることで、同社の車載向け拡販戦略は⼀気に加速する可能性がある。特に⾃動⾞業界では、⾃動⾞をIoT端末と位置付けるコネクテッドカーの実現に向けて、第5世代移動通信(5G)を前提とした開発が進められている。スマホ市場で豊富な実績を誇る同社のソリューションに注⽬が集まるのは必然だろう。

 車載向けにNXPのコネクションやノウハウを活用できることは、同社の大きなメリットだが、多岐に渡る製品群で幅広いアプリケーションに対応してきたIDM(垂直統合型半導体製造企業)タイプのNXPと、少ない製品群で特定アプリケーション向けに事業展開してきたファブレスタイプの同社では、企業文化にも大きな隔たりがあるだろう。またQualcommは無線通信を得意とする一方で、自動運転向けプロセッサの開発に関しては未知数であり、NVIDIAとは得意/不得意分野が対照的でもある。

戦国時代の覇権争いへ

 今回は、今後の車載半導体において注目を集めている3社についてコメントを述べたが、3社のこの市場での実績はいずれも3億米ドル以下で、大手3社の10分の1にも満たない。しかもそれぞれが課題を抱えており、他社を圧倒するような決め手に欠けているのが現状である。この状態は当面継続されることが予想される。かつてのPC業界におけるIntelのように、市場を支配できるような半導体メーカーが台頭してくる可能性は極めて低いのではないだろうか。車載半導体業界も、まさに戦国時代が到来したといえそうだ。

筆者プロフィール

大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表

 慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。

 1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。

 2010年にアイサプライ(現IHS Markit Technology)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。

 2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。


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