太陽電池用Si薄膜、高品質で成長速度は10倍:発電効率を維持、コストは低減
東京工業大学と早稲田大学は共同で、太陽電池用の単結晶シリコン(Si)薄膜を作製する新たな技術を開発した。高品質の単結晶Si薄膜を、従来手法に比べ10倍以上の速度で成長させることができるという。
Si原料の収率はほぼ100%へ
東京工業大学物質理工学院応用化学系の伊原学教授と長谷川馨助教らは2018年3月13日、早稲田大学理工学術院の野田優教授と共同で、太陽電池用の単結晶シリコン(Si)薄膜作製技術を新たに開発したと発表した。結晶欠陥密度をSiウエハーレベルまで低減し、成長速度はこれまでの方法に比べ10倍以上も速いという。
単結晶Si太陽電池は薄型化することで、モジュールの原料コストを節減できる。その上、軽量化などが可能となりパネルの設置作業なども容易となる。このため伊原氏らは、発電効率を維持したまま、製造コストを削減できる単結晶Si薄膜の作製に取り組んできた。
伊原研究室ではこれまで、アモルファスSiを短時間で溶融再結晶化し、単結晶Siを生成することに成功。これらの技術をポーラスSi基板の処理に適用し、表面の構造のみを変化させるゾーンヒーティング再結晶化(ZHR)法などを開発してきた。
今回の研究では、電気化学的手法を用いて、単結晶ウエハーの表面に2層のポーラスSiを作製した。その表面をZHR法によって0.2〜0.3nmまで平滑化する。この基板を用いて結晶を高速成長させ、単結晶Si薄膜を形成した。成長膜は2層のポーラスSi層を使い剥離する。ZHR法の条件を変更し、下地基板の表面粗さを減らすことで、結晶薄膜の欠陥密度が減少することも分かった。最終的に結晶欠陥密度をSiウエハーレベルまで低減させることに成功した。
なお、結晶成長には、早稲田大学野田研究室で開発した急速蒸着(RVD)法を用いた。原料となるSiを通電過熱して蒸発させる物理蒸着(PVD)法において、原料温度を2000℃という高温にすることで高いSi蒸気圧を得ることができ、毎分10μmでSiを堆積することができるという。
これまで主に用いられてきた化学蒸着(CVD)法だと、成長速度は毎時数ミクロンであり、原料収率は約10%にとどまっていた。RVD法を用いると、成長速度は10倍以上も速くなる。下地のSi基板は再利用あるいは薄膜成長用の蒸発源として活用できるため、原料損失も極めて少ない。これにより、原料や製造装置のコストを大幅に節減することが可能となる。
研究グループは今後、薄膜のキャリアライフタイム測定など、実用化に向けた研究を行う予定である。さらに、効率が30%を上回るタンデム型太陽電池用の低コストボトムセルとしての活用も検討する。
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