東工大、燃料電池の反応生成液水の挙動を可視化:燃料電池自動車の普及に向けて
東京工業大学の平井秀一郎教授らは、作動している燃料電池内の反応生成液水の挙動を、ミクロン単位の高い解像度でリアルタイムに可視化できる技術を開発した。
リアルタイムで高解像の解析を可能に
東京工業大学の平井秀一郎教授らによる研究グループは2017年10月、作動している燃料電池内の反応生成液水の挙動を、ミクロン単位の高い解像度でリアルタイムに可視化できる技術を開発したと発表した。車載用燃料電池などの特性改善に向けた開発を加速できる可能性が高い。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、FCV(燃料電池自動車)の本格普及に向けて、実用的な燃料電池の仕様などを設定している。これらの目標を達成するために必要となる解析技術や評価技術などを開発するための事業を2015年度より実施している。今回の成果もその一環で、平井氏と技術研究組合「FC-Cubic」らの研究グループが開発した。
燃料電池は、水素と空気中の酸素(供給ガス)を触媒上で反応させて、水を生成する際に発生するエネルギーを電力に変換する。ところが、生成された液体水が燃料電池内にとどまり、供給ガスの輸送を妨げることもあるという。
燃料電池の性能向上には、生成された液体水の挙動を正確に把握する必要がある。しかし、これまでは作動している燃料電池内の反応生成液水を高解像度でリアルタイムに可視化できる装置がなく、反応生成液水の挙動を発電性能から間接的に判断していた。
作動中の燃料電池における反応生成液水の可視化に向けて平井氏らは、軟X線ビームの平行化技術とCMOS検出器を組み合わせ、同時に観測用の燃料電池セルも厚みを薄くしてX線の吸収による影響を抑えるよう工夫した。これによって、実験室に設置可能な形状の計測装置を実現し、作動中の燃料電池内部(各層や各界面)の反応生成液水の挙動を正確に把握することが可能となった。
東京工業大学は今後、今回の成果を基に関連する企業と共同研究を行い、自動車業界が燃料電池に要求している性能や耐久性、製品コストの実現を目指していく。
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