AIを用いて効率的に全固体電池用電解質を開発:富士通と理研
富士通と理化学研究所は2018年3月16日、人工知能(AI)を用いて、高いイオン伝導率を実現するための全固体リチウムイオン電池用固体電解質の開発を効率化することに成功したと発表した。
第一原理計算の計算回数を数十分の1に抑制
富士通と理化学研究所革新知能統合研究センター(AIPセンター)は2018年3月16日、人工知能(AI)を用いて、高いイオン伝導率を実現するための全固体リチウムイオン電池用固体電解質の開発を効率化することに成功したと発表した。
高機能材料の最適組成を割り出す方法として、材料シミュレーション手法の1つあである「第一原理計算」がある。第一原理計算は、材料の組成を指定すれば量子力学に基づいて特性予測が可能であり、最適組成を実験に先立って予測し、実験の失敗を低減できる。しかし、第一原理計算は、「計算負荷が非常に大きく、さまざまな組成について、1度に多数の計算を行うと計算そのものに膨大な時間がかかるという問題があった」(富士通)という。
材料開発の開発期間を短縮することを目指し連携する富士通と理研AIPセンターは、AI手法の1つであるベイズ推定法を用いて、第一原理計算の計算回数を数十分の1に抑制したという。この手法を用い、全固体リチウムイオン電池用固体電解質の候補材料である「3種類のリチウム含有酸素酸塩から合成される化合物」について、高いイオン伝導率を実現する最適組成を現実的な時間内で予測。実際に化合物の合成と分析を行い、予測された組成付近で他の組成よりも高いリチウムイオン伝導率が実現されることを確認。これにより、富士通と理研AIPセンターは「新たな高機能材料開発のめどが付いたと同時に、予測の正しさが実証された」とする
また両者は「材料開発におけるAIの高度利用を促進し、さまざまな材料に対して適用可能なマテリアルズインフォマティクス技術を確立していく。それらの技術の適用を通じて、新材料開発の効率化に貢献する」と今後についてコメントしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 1cm角の全固体リチウムイオン電池、IoT向けに発進
英国のIlika Technologiesが、1×1cmと超小型の全固体薄膜リチウムイオン電池を発表した。容量は250μAhで、環境発電技術と組み合わせて、まずはIoT(モノのインターネット)機器をターゲットとする。 - 全固体Li二次電池、複合電極の電位分布計測が可能に
物質・材料研究機構の石田暢之氏らの研究チームは、全固体リチウムイオン二次電池の複合正極材料において、充放電前後の電位分布変化をナノスケールで可視化することに成功した。 - 全固体電池用、高エネルギー密度の正極材料開発
FDKと富士通研究所は、全固体リチウムイオン電池の正極材料として、エネルギー密度が高い「ピロリン酸コバルトリチウム」を共同開発した。 - 産総研、内部短絡しない全固体Li二次電池を開発
産業技術総合研究所(産総研)の片岡邦光主任研究員らは、高い安全性と信頼性を実現した小型全固体リチウム二次電池を開発した。単結晶を用いて作製した固体電解質部材は、酸化物系で世界最高レベルの導電率を実現したという。 - −30℃でも駆動する全固体Li電池の試作に成功
オハラは2016年8月、酸化物系材料を用いた全固体リチウムイオン(Li)電池において、−30℃の低温化においても駆動する電池の試作、実証に成功したと発表した。現在、小型電子機器に搭載されている、電解液を用いたリチウムイオン電池との置き換えが期待できるという。 - プリンタ技術から生まれた太陽電池と蓄電素子
リコーは、「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2017」(2017年10月4〜6日、幕張メッセ)で、同社のプリンタ技術を活用して開発を行っている有機太陽電池と蓄電素子を展示した。