プリンタ技術から生まれた太陽電池と蓄電素子:エナジーハーベストに向けて
リコーは、「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2017」(2017年10月4〜6日、幕張メッセ)で、同社のプリンタ技術を活用して開発を行っている有機太陽電池と蓄電素子を展示した。
複写機の技術が有機太陽電池開発のカギに
リコーは「CEATEC JAPAN 2017」の同時開催展である「MEMSセンシング&ネットワークシステム展 2017」(2017年10月4〜6日、幕張メッセ)で、エナジーハーベスト(環境発電)素子として開発中の有機太陽電池と、新しい蓄電素子を公開した。
展示した有機太陽電池は、2014年6月に同社が発表した完全固体型色素増感太陽電池(以下、固体型DSSC)と有機薄膜太陽電池(以下、OPV)の2種類。モジュール化した電池を用いて、展示会場の照明下でIoT(モノのインターネット)機器を模した温度センサーやターンテーブルを動作させ、低照度下での高出力、安定駆動をアピールした。
同社の固体型DSSCは、DSSCのメリットである低照度域での高変換効率を維持しつつも、電解質を液体から固体に置き換えたことによる安全性、耐久性の高さが特長。高開口率直列モジュールを採用したことにより、開放電圧は4.9V以上と良好な発電性能を実現した。現在、開発段階の後半に入っていて「2018年4月にサンプル出荷を目指す」(同社)としている。
また、開発中のOPVは、光電変換層に同社がプリンタ開発で培った感光体技術によるオリジナル素材を採用し、室内から半屋外と幅広い照度域で15%以上と高い変換効率を実現した。発電性能は、単一セル条件の参考値として12.4μW/cm2(200ルクス)、58.5μW/cm2(1000ルクス)、642μW/cm2(1万ルクス)となる。
キャパシターと二次電池の"いいとこ取り"を狙う新蓄電素子
DSSC、OPVで発電した電力の受け皿として、同社はキャパシターを超える入出力特性と、二次電池並みの容量を併せ持つ新機構の蓄電素子を提案している。この蓄電素子が採用する蓄電機構は、一般的な二次電池で利用されるカチオン(陽イオン)と、溶媒中の移動速度が速い特性を持つアニオン(陰イオン)を用いるデュアルイオン機構と呼ぶもの。プリンタのトナー技術によって開発された、高導電性の炭素材料を正極材に採用することで実現した。
この蓄電素子は「2〜3年後をメドに実用化を目指す」とし、電動工具や無人搬送車などを応用例として挙げ、「急速充放電特性と高容量の両立が求められる機器の電池として活用できる」と自信を見せた。
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