自動運転開発でシミュレーションの重要性が増す?:Uberの事故で(2/2 ページ)
Uberの自動運転車による死亡事故を受け、自動運転技術の開発におけるシミュレーションの重要性が、より高まるのではないだろうか。
実環境より、シミュレーションでの走行距離も重要
WaymoやGeneral Motors(GM)、Ford、Uberなどの自動運転車の開発メーカーは、自分たちが開発した自動運転車の完成度を示したり、メディアや経営幹部、株主、投資コミュニティーからの評価を獲得したりするために、実際の環境(公道など)をどのくらい走行したかという距離数を用いる場合が多い。
例えば、Uberが先日起こした衝突事故を例として取り上げてみよう。
報道によると、Uberのアリゾナチームは、UberのCEO(最高経営責任者)であるDara Khosrowshahi氏が2018年4月に予定していたアリゾナ訪問に向けて、準備を進めるべく、現実世界での試験走行距離を急いで増やそうとしていたようだ。
New York Timesの報道によれば、Uberの開発チームは、Khosrowshahi氏に自動運転車に同乗してもらい、いわゆるエッジケースや、予測が難しい微妙な道路状況などにも、人間の介入なしに対応できるということを実演して見せ、高い評価を得たいと考えていたとされる。
New York Timesが入手した企業文書には、「Uberの自動運転車の米国全土における1年間当たりの走行距離は、2017年9月の時点で100万マイル(約160万km)に達している。また、その後100日以内に、2回目となる100万マイルの走行を達成し、さらに次の100万マイル走行はもっと短期間で実現した」と記されていたという。
しかし、ここに問題があるのだ。
Khorsrowshahi氏が2017年11月のカンファレンスで主張していたように、Uberは、自動運転車のあらゆるエッジケースに対して措置を講じたいのであれば、同社の自動運転車がこれまでのシミュレーションで達成した走行距離について、説明すべきだったのではないだろうか。
市場調査会社であるIHS Markitのインフォテインメント&ADAS部門でリサーチディレクターを務めるEgil Juliussen氏は2017年末に、Waymo独自の安全レポートの記載内容に関する議論の中で、「私が感銘を受けたのは、Waymoが発表した現実世界の公道での走行距離についてではなく、もっと重要性の高いシミュレーションによる走行距離だ」と述べている。
Waymoの安全レポートによると、同社は、現実世界の公道上で850万マイル(約1367万km)の走行距離を蓄積してきたという。しかし、同社は2016年に、シミュレーションによる自動運転で25億マイル(約40億2336万km)の走行距離を達成した点についても強調している。1日当たりのシミュレーション走行距離は、2016年には800万マイル(約1280万km)だったが、2017年には1000万マイル(約1600万km)に増加させたという。Juliussen氏は、「Waymoの非常に素晴らしい点は、シミュレーションの中で、難しいケースにのみ焦点を絞って試験を行ったことだ」と述べる。
Waymoは、安全レポートの中で、「当社では、シミュレーションの中で、最初にソフトウェアに関する全ての変更やアップデートについて徹底的に試験を実施してから、隊列走行でソフトウェアを採用する。自動運転車が公道での走行中に遭遇した中でも最も困難だった状況を特定し、仮想シナリオに変換することで、自動運転ソフトウェアでシミュレーションを実施できるようにする」と説明している。
今のところ、Uberが十分なシミュレーションを行ってから自動運転車の公道走行を実施したのかどうかは、まだ分からない。またUberが、自動運転用ハードウェアやソフトウェア、自動運転スタックなどのシミュレーションや確認、検証などにおいて手を抜いていたのかどうかも不明だ。
UberとWaymoはいずれも、自動運転車開発で使用したシミュレーションツールの詳細については、一切明らかにしていない。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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