電子顕微鏡による3次元ナノ計測、AIで高速化に成功:ディープラーニングで超解像処理
東北大学と防衛大学校は、AI(人工知能)技術を用いて、集束イオンビーム−走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)による3次元ナノ計測を、高い解像度で高速に行える技術を開発した。
東北大学多元物質科学研究所(IMRAM)の陣内浩司教授と樋口剛志助教は2018年4月、防衛大学校の萩田克美講師と共同で、集束イオンビーム−走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)による3次元ナノ計測を、高い解像度で高速に行える技術を開発したと発表した。この技術はディープラーニング(深層学習)などAI(人工知能)技術を用いることで実現した。
FIB-SEMは、半導体材料や電池材料、ソフトマテリアル複合材料などの立体的構造を計測するために用いられる。ところが、イオンビームによるダメージが大きいプラスチックやゴムなどのソフトマテリアル複合材料は、細かなピッチでの切削観測が難しく、高い解像度で計測することは困難であった。
ソフトマテリアル複合材料も高解像度で計測
東北大学と防衛大学校は今回、超解像化処理技術による3次元構造計測の高速化を考案。この手法を用いて、非対称解像度で計測した3次元画像の画質向上が可能なことを、シリカナノ粒子を充填したポリマーナノコンポジットで確認した。
FIB-SEMによる3次元像の解像度は、x−y面が高くz方向の解像度はそれに比べると低い。このため、x−y面もz方向の低い解像度に合わせざるを得なかったという。研究チームは今回、x−y面について本来の像と劣化させた像について、その関係性をディープラーニングで学習させた。このデータを基に、x−z面とy−z面の像に対して解像度を高める超解像化処理を行った。
課題であったソフトマテリアル複合材料のFIB-SEM観察においては、ポリマー部を重金属化合物のOsO4で固定化し、ソフトマテリアルに熱伝導性と導電性を持たせた。これにより、イオンビームによるダメージを低減できる。この結果、微細なピッチで切削することが可能となり、全方向で2nmの分解能を達成。一辺2μmの範囲で計測することができたという。
研究チームは、超解像化処理の検証実験も行った。これによって、z方向の解像度が低いほど、ディープラーニングの超解像化処理が有効であることを確認した。
今回の研究成果を活用することによって、同等の分解能を有する3次元構造データであれば、計測時間を従来の約10分の1に短縮することができるという。なお、今回の技術を搭載した3次元電子顕微鏡の開発を、日立ハイテクノロジーズと共同で行う予定である。
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