Uberの事故を「最初で最後の悲劇」にするために:“何を”シミュレーションするか(2/2 ページ)
2018年3月に発生したUberの自動運転車による死亡事故は、多くの物議を醸している。これまで以上にシミュレーションが重要になってくると考えられるが、より大切なのは“何を”シミュレーションするのか、だろう。
動作予測は、できるのか
DeepScaleの共同設立者でCEO(最高経営責任者)であるForrest Iandola氏は、Uberの事故について、「Uberが、事故を起こした自動運転車のドライブレコーダー映像やデータを公開しない限り、レーダーやカメラがとらえたどのデータが本当の事故原因となっているのかを外部者が知ることは難しいだろう。必要なのは、透明性だ。透明性がなければ、Uberの認識システムや運動計画、マッピングなどのどこに問題があったのかを特定することは難しい」と述べている。
2015年に設立された新興企業DeepScaleは、ADAS(先進運転支援システム)および自動運転車向けのディープラーニング(深層学習)認識ソフトウェアの開発を手掛けている。Iandola氏は、同社がこれまでに習得してきたことに基づき、「自動運転車向けに開発された認識システムの大半は、学術分野において詳しい検査が行われている。例えば、ライダーは既に、3次元の物体の形を認識することができる他、自動運転車の意味論的な認識機能も、物体を分類することが可能だ。しかし、ここで欠けているのが、予測認識である。予測認識に関する研究は、今ようやく始まったばかりだ」と指摘する。
もし自動運転車が、物体が今から5秒後にどこに移動するのかを予測できなければ、物体の存在を認識した時点で、例えばブレーキをかけるのか、それとも曲がるのかといったことを判断することはできない。Iandola氏は、「動作計画と予測情報との間には、標準インタフェースが必要だ。もしこの課題を解決できなければ、レベル4の自動運転車の実現は非常に難しい」と述べている。
“何を”シミュレーションするのか
重要なのは、自動運転車の走行試験を公道で行う前に、シミュレーションを行うことである。しかし、さらに重要なのは、「何に関するシミュレーションを行うのか」を明確にするという点だ。
Edge Case Researchの共同創設者でありCEOを務めるMichael Wagner氏は、「自動運転車開発メーカーにとっては悪い知らせとなるが、数十億マイルものシミュレーション走行を行ったとしても、必ずしも、自動運転車の“致命傷”ともなり得るコーナーケース(まれにしか起こらないケース)やエッジケース(境目ぎりぎりで起こる特殊なケース)を露呈できるわけではないのだ」と述べている。
ディープラーニング用チップメーカーはここ数年の間、膨大なリソースを投入することにより、完全な自動運転システムを実現可能な、ディープラーニングアルゴリズムを提唱してきた。このようなアルゴリズムは、起こり得る全ての状況に触れる必要なくパターンを認識することが可能な、人間と同じ能力を持った自動運転車を実現する可能性を秘める。
しかし、このような議論の裏側には、マシンラーニングおよびディープラーニングシステムがこれまで見たこともないような状況(「ロングテール」または「異常値」)に遭遇した場合に、マシンラーニングをベースとしたシステムが錯乱状態に陥る可能性があるという点が挙げられる。人間のドライバーが、異常な状況に直面した場合は、少なくとも何かがおかしいと感じ、どうにかして何らかの対応をしなければならないと理解することができる。一方、マシンの場合は、極めて異常な状態であることを記録できずに、そのまま進んで行ってしまう可能性がある。
Wagner氏は、「Edge Case Researchは、このような異常状態をシミュレーションプラットフォームに組み込むべく注力しているところだ。現在もまだ開発の初期段階にすぎないが、当社のプラットフォーム『Hologram(コード名)』は、自動車が実際に走行した距離を、数百万通りものシナリオに変換することにより、可能な限り迅速かつ安全に“未知の未知”を根絶できるようにする」と説明している。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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