新規事業開拓のヒント? ベンチャーキャピタルが握る“水面下の情報”を活用するには:イノベーションは日本を救うのか(24)(4/4 ページ)
ベンチャー企業に投資を行うベンチャーキャピタルには、まだ世に知られていない、先端技術の“水面下の情報”が集まってくる。こうした情報は、一般的な事業法人にとっても貴重な新規事業の種となるわけだが、企業がこうした情報にアクセスするには、どうすればよいのだろうか。また、アクセスした情報を、どう活用すれば、新規事業の開拓につなげることができるのだろうか。
専門性が高い、ベンチャーキャピタルの活動
これまでの議論で想像に難くないと思うが、ベンチャーキャピタル(あるいはベンチャーキャピタリスト)の活動というのは、極めて専門性が高いものである。よい案件を手に入れるには経験を積んで人脈を作らなくてはいけない。さらに、“本当によい案件かどうか”を見極める、デューデリデンスの力もないといけない。技術の内容、マーケットのポテンシャルや、ベンチャー企業の経営陣の資質を見抜く力も必要だ。実際に投資する段階でも、投資の方法からタームシート(投資の基本条件を記した書類)の作成方法まで、必要な実務の知識は山ほどある。こうした一連の活動を一回りやろうとすると、ゆうに10年はかかる。つまり、ベンチャーキャピタリストが一人前に活動できるようになるまで、10年はかかるということだ。
だが、一般的な事業会社には、普通そういう人材はいない。いなくても当然といえる。製造会社などではそのような人材は必要はなかったし、それ故、そのような人材を社内で養成する必要もなかった。そのため、いきなりCVCを始めましょうといっても、うまくいかないのが当然だ。
そこで、既存のベンチャーキャピタルにLP投資を行い、資金と人材を送り込んで、ベンチャーキャピタルに入ってくる案件情報を活用するとともに、ベンチャーキャピタルの経験を少しずつ蓄積していく、という方法をとる。やはりCVCを自社でやって行きたいという場合には、社内での養成では間に合わないので、既にベンチャーキャピタリストとしての経験を十分に積んだ人間を外部から雇うケースが一般的である。
1980年代後半、日本企業も、米国のベンチャーキャピタルファンドに投資をしていた時期があった。この連載で何度も書いているように、事業の多角化や新規事業開拓を図るためである。ベンチャーキャピタルファンドの中には、事業会社のために、資金を投入してもらう「枠」を設けているものもある。事業会社は、その枠を使ってベンチャーキャピタルファンドに資金を入れ、代わりに案件にアクセスして新規事業の種を探す仕組みだ。
次回は、大手日本企業のCVCの取り組みを具体的に見ていきたい。
⇒「イノベーションは日本を救うのか 〜シリコンバレー最前線に見るヒント〜」連載バックナンバー
Profile
石井正純(いしい まさずみ)
日本IBM、McKinsey & Companyを経て1985年に米国カリフォルニア州シリコンバレーに経営コンサルティング会AZCA, Inc.を設立、代表取締役に就任。ハイテク分野での日米企業の新規事業開拓支援やグローバル人材の育成を行っている。
AZCA, Inc.を主宰する一方、1987年よりベンチャーキャピタリストとしても活動。現在は特に日本企業の新事業創出のためのコーポレート・ベンチャーキャピタル設立と運営の支援に力を入れている。
2005年より静岡大学大学院客員教授。2012年より早稲田大学大学院ビジネススクール客員教授。2006年より2012年までXerox PARCのSenior Executive Advisorを兼任。北加日本商工会議所(2007年会頭)、Japan Society of Northern Californiaの理事。文部科学省大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)推進委員会などのメンバーであり、NEDOの研究開発型ベンチャー支援事業(STS)にも認定VCなどとして参画している。
2016年まで米国 ホワイトハウスでの有識者会議に数度にわたり招聘され、貿易協定・振興から気候変動などのさまざまな分野で、米国政策立案に向けた、民間からの意見および提言を積極的に行う。新聞、雑誌での論文発表および日米各種会議、大学などでの講演多数。共著に「マッキンゼー成熟期の差別化戦略」「Venture Capital Best Practices」「感性を活かす」など。
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