横型スピン注入素子、長距離核スピン偏極を観測:スピン流デバイスの開発に貢献
東北大学金属材料研究所の塩貝純一助教らによる研究グループは、強磁性体半導体「(Ga,Mn)As(ガリウムマンガンヒ素)」を用いた横型スピン注入素子を作製し、核スピンが20μmの長距離にわたり偏極していることを明らかにした。
東北大学金属材料研究所の塩貝純一助教および、東北大学工学研究科の好田誠准教授、新田淳作教授らの研究グループは2018年4月、強磁性体半導体「(Ga,Mn)As(ガリウムマンガンヒ素)」を用いた横型スピン注入素子において、核スピンが20μmの長距離にわたり偏極していることを明らかにした。
今回は、東北大学金属材料研究所の野島勉准教授やドイツ・レーゲンスブルク大学のDieter Weiss教授の研究グループとの共同研究による成果である。
電子の持つ「電荷」と「スピン」の2つの自由度を電気的に操作するスピントロニクスは、新しい機能を備えたデバイス開発技術として期待されている。特に、GaAs(ガリウムヒ素)をはじめとするIII-V族半導体は、電子スピンのゲート電界制御が可能なうえ、直接遷移型のエネルギーギャップを有する。このため、スピントランジスタのチャンネル材料やスピン発光ダイオードなどに用いる物質として注目を集めているという。
これまで行われてきた核スピン偏極の研究は、強磁場環境における量子ホール状態や円偏光スピン発光ダイオード素子を用いたもので、スピントランジスタの基本要素である横型スピン注入素子の核スピン偏極における空間的な広がりとスピン流に及ぼす影響については知見がなかったとする。
半導体横型チャネルでスピン流と核スピンの相関を明らかに
研究グループは今回、横型スピン注入素子を作製しその特性を検証した。この横型スピン注入素子は、スピン検出用の端子を複数配置している。このため、磁気抵抗効果から電子スピンの偏極率と距離依存性を測定することが可能となり、核スピンの偏極率やその空間分布を、スピン電圧として読み出すことができる。
検出端子における磁気抵抗を測定すると、電子スピン蓄積を示すゼロ磁場付近にピークが存在。また、核スピン偏極を示すサテライトピーク(下図中の逆三角)も観測することができた。「サテライトピークが現れる磁場の値は、スピン流が感じる核磁場の値に相当する」という。
測定結果では、スピン注入端子から20μm離れた検出端子でも、サテライトピークを観測できた。これにより、核スピンが20μmの長距離まで偏極していることが分かった。サテライトピークは、注入端子から離れると弱磁場側にシフトしており、核スピン偏極率が小さくなるという。
研究グループによると、「半導体横型チャネンルで、スピン流と核スピンの相関を明らかにしたのは今回が初めて」という。これにより、「スピン流を用いたスピン情報の書き込み/読み出しの基盤技術を確立できた」とみている。
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