九州大学ら、ポリマー光変調で112Gbpsの光伝送に成功:1.5Vの低電圧でも動作し省電力
九州大学は、新たに開発した電気光学ポリマー光変調器を用い、極めて高速な光データ伝送に成功した。デバイスの熱安定性と低電圧駆動を実現した。
熱安定性などの課題もクリア
九州大学先導物質化学研究所の横山士吉教授らによる研究グループは2018年5月、新たに開発した電気光学ポリマー光変調器を用い、極めて高速な光データ伝送に成功したと発表した。これまで課題となっていた熱安定性などもクリアした。
研究グループは、爆発的に増大する情報通信量への対応策として、電圧を印加すると光の屈折率が変化する電気光学ポリマーを用いた光変調器の活用に注目してきた。今回は、優れた電気光学特性と熱安定性を持つポリマーを日産化学工業と、超高速光変調器モジュールをアダマンド並木精密宝石と、それぞれ開発した。
新たに合成したポリマーは、ニオブ酸リチウムなどの無機結晶に比べて、変調速度が2〜3倍速い電気光学特性を持ち、低電圧で光変調を行えることが分かった。これまでに、電気光学ポリマーは100GHz以上の応答特性を持つことが理論的に示されているという。
今回行った光伝送の実験でも、OOK(On-Off-Keying)方式で56Gビット/秒(bps)の光信号を、PAM(Pulse-Anplitude Modulation)-4方式では112Gbpsの光信号を、それざれ発生することに成功した。動作電源電圧は1.5Vである。しかも、合成した電気光学ポリマーはガラス転移温度が180℃以上であり、光変調器の熱安定性といった課題も解決することができたという。
研究グループは、「超高速で省電力、熱安定性を兼ね備えたポリマー光変調器を実現したのは世界で初めて」と話す。これまで、100Gビットを超える光信号の発生には、複数の変調チップを並列で用いる方式で対応してきた。開発した電気光学ポリマーを用いれば、1チップで100Gビットを超える高速化を実現できる。簡便な塗布技術で作製するポリマー光変調器は、シリコン光集積技術との融合も可能だという。
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