シリコン光導波路と基本的な光波長フィルター:福田昭のデバイス通信(147) imecが語る最新のシリコンフォトニクス技術(7)(2/2 ページ)
光回路を形成する受動素子(パッシブデバイス)を解説する。具体的にはシリコン光導波路と、基本的なシリコン光波長フィルターを取り上げる。
WDM伝送に必須の受動素子が光波長フィルター
本シリーズの第5回で説明したように、広帯域の光伝送には、波長分割多重(WDM Wavelength Division Multiplexing)技術を使う。例えば波長のわずかに異なる8本の光ビームをまとめて1本の光ファイバーあるいは光導波路に通し、信号を伝送する。
波長を多重化した光ビームから、特定の波長の光ビームを選択的に取り出す素子が、光波長フィルター素子である。シリコンフォトニクスでは、シリコン光導波路を使ったリング共振器が、光波長フィルターに使われる。
光波長フィルターを構成するのは、入射光側の光導波路、レーストラック(陸上競技のトラック)状リングによる光共振器(レーストラック型リング共振器)、選択した光を取り出す側(ドロップ側)の光導波路である。リング共振器と入射光側およびドロップ側の光導波路は接触しておらず、極めて微小なギャップを介して近接している。
リング共振器で共振する光の波長は、共振器の長さ(レーストラックを1周する長さ)と、実効屈折率によって決まる。具体的には、共振器の長さと実効屈折率の積が、波長の整数倍になるような光だけが共振する。そしてこの共振波長に対応する光だけが、入射光側の光導波路からリング共振器に移動する。そしてリング共振器から、ドロップ側の光導波路に流れ込む。
ここでWDMによる8種類の波長に対応した8種類のリング共振器を、入射光側の光導波路にカスケード接続する。8種類の波長による8チャンネルの光ビームを入射光側の光導波路に入力する。すると8個のリング共振器のドロップ側光導波路から、それぞれの共振波長に対応した光が出力される。このようにして各チャンネルの光ビームを選択的に取り出す。
光波長フィルターの構造と役割。左上は光波長フィルターの電子顕微鏡観察画像。左下は光波長フィルターの構造図。上の左右に水平に伸びる曲線が入射光側の光導波路。その下がレーストラック型のリング共振器。さらにその下にある水平な曲線が選択光を取り出すドロップ側の光導波路。右上は、8種類の波長の異なる光ビーム(光チャンネル)を各チャンネルに分けて取り出す光回路の回路図。8個のレーストラック型リング共振器(全て選択波長が異なる)をカスケード接続することで、各チャンネルに相当する波長の光だけを選択的にドロップ側に出力する。右下は、8個の光波長フィルターによる光応答特性。グラフの縦軸は透過率、横軸は波長。曲線のピークが、最も透過率が高い波長、すなわちリング共振器フィルターによって取り出す光チャンネルになる (クリックで拡大) 出典:imec
(次回に続く)
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