DSPを搭載したレーダーチップ、狙いは産業用途:TIのミリ波レーダー戦略
車載レーダーシステムに限界があることは、よく知られている。従来のレーダーは距離分解能が低いため、近くの物体を識別できない。レーダーは、誤警報を鳴らすことも知られている。高速道路で役に立つようなレベルの迅速な情報処理には全く対応できていない。
車載レーダーシステムに限界があることは、よく知られている。従来のレーダーは距離分解能が低いため、近くの物体を識別できない。レーダーは、誤警報を鳴らすことも知られている。高速道路で役に立つようなレベルの迅速な情報処理には全く対応できていない。
その一方で、車載システムの専門家は、レーダー技術にはこうした欠点を補完する価値があることも認めている。最も注目すべきは、あらゆる気象状況で稼働できることだ。レーダーは、ビジョンセンサーを組み合わせることで、高性能自動運転車に搭載される重要なセンシング技術としての活用が期待されるという。
車載レーダーの短所と長所の両方を理解した上で疑問に思うのは、レーダーが今後どこへ向かうのかということだ。
分解能5cm未満、時速300kmまで対応
Texas Instruments(TI)は、自社製の標準的なRF CMOS技術を適用したミリ波レーダーチップで、この疑問に答えようとしている。TIが2017年前に発表したレーダーチップは、「分解能が5cm未満で、数百メートル先の対象物を検出でき、時速300kmの速度まで対応している」という。
TIでレーダー&分析プロセッサ担当ゼネラルマネジャーを務めるSameer Wasson氏は最近、EE Timesに対して、「レーダーチップの販売開始から1年がたち、車載用途と産業用途の両方が好調に推移している」と語った。
Wasson氏は、TIの車載市場向けミリ波センサー「AWR1642」が既に量産に入っていることを明らかにし、「2018年末から2019年半ばには、TIのレーダーチップが市販の自動車に搭載される見通しだ」と語った。
レーダーを産業用途に
だが、同氏がより注力しているのは、TIのレーダーチップを産業用途に向けて開拓することだ。産業用に設計されたTIのミリ波センサー「IWR1642」は、スマートビルディングから工場、輸送システムに至るあらゆる産業用途に対応できるという。
フランスの市場調査会社であるYole Développementのアナリストは、「TIは、レーダーの技術の展望を急激に変えるだろう」と述べている。なぜ、そう言えるのだろうか。Yole DéveloppementでRFデバイスおよび技術部門の技術/市場アナリストを務めるCedric Malaquin氏は、「主な理由は、TIのレーダーソリューションの統合にある」と語る。TIのミリ波センシングデバイスは、76G〜81GHzのミリ波レーダーとマイクロコントローラー(MCU)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)コアを1つのチップに集積している。
集積度が高いほど、レーダーチップの性能を低下させずにフットプリントや消費電力、コストを削減できるのは明らかだ。Malquin氏は、「例えば、NXP Semiconductorsは、RF-CMOSトランシーバーにMCUを組み込むことで最初の一歩を踏み出した。TIは、DSPも統合することでさらなる進化を遂げた」と説明している。
TIのミリ波レーダーに統合されたDSPは、動作周波数が600MHzのプログラマブルDSP「C674x」である。Armの「Cortex-R4F」(動作周波数は200MHz)も搭載されている。
Wasson氏は、TIは、フロントエンド回路、DSPおよびMCUをシングルチップに搭載したミリ波レーダーソリューションを提供できる、唯一のメーカーだと強調する。「他の半導体メーカーもCMOSベースのミリ波レーダーチップの開発について言及しているが、市場にはまだ投入されていない。もし2020年に発売されるクルマに採用されたいのであれば、今、量産できるチップでないと難しいだろう」(同氏)
さらにTIは、同社のミリ波レーダーチップは産業用途にも影響を与えると確信している。例えばTIは、人物のトラッキングと人数のカウント向けのレファレンス設計を用意している。Wasson氏は、最近、英国の設計チームとミーティングを行ったことを明かしてくれた。同チームは、交通モニタリングシステムを交差点に導入すべく、開発を進めているという。「当社のミリ波レーダーチップを使うことで、交通モニタリングシステムの構築を、予想以上に速いスピードで進められたと聞いている」(Wasson氏)
Wasson氏は、レーダーシステムは幅広い用途に応用できると確信していると述べた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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